著者
宮崎 三世
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.33-43, 2009

「道化の華」は、小説の登場人物である葉蔵と、その書き手である「僕」が重ね合わされるようにして書かれている。「僕」は、葉蔵の小説を書くことによってそれを生き、自らの抱える問題の答えを求めようとしているのだと、作品そのものに示されているということではないだろうか。それは、葉蔵と同様に心中相手の女を死なせて一人生き残った男である「僕」が、これからどのように生きていけるのか分からないということである。「僕」は結局、そのことに解決や救いが与えられることはないと認め、葉蔵が女の死を忘れずに引き受けていく他ないと示す結末を書く。「僕」は小説を書く理由を「復讐」と答えるが、「僕」が怒りを向ける相手とは、自分自身をおいてはないだろう。本作品では、小説を書くことによって強烈な自意識に付きまとわれ続ける男、つまり書き手の「僕」自身の姿が、まるで地獄に閉じこめられるかのように描かれることとなったのである。