著者
宮崎 元裕
出版者
愛知江南短期大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

前年度に引き続き、価値教育に関する文献の収集・整理・分析を行いながら、諸外国における価値教育の機能変容に関して検討を進めた。その際、注目したのは、(1)中心的に教えられている価値観は1つか、それとも複数か、(2)その価値観を絶対的なものとして教え込んでいるのか、それともその価値観に対する批判的検討を許容する余地を許容しているのかどうか、という2点である。従来、1つの価値観を絶対的に教え込む傾向の強かった価値教育だが、近年の多文化化の進行に伴い、しだいに複数の価値観を取り扱いながら批判的思考力を重視するものへと変化する傾向が見られる。近年の特徴は、価値教育のなかでも、従来、特に絶対的な価値観を教え込む形態がとられることの多かった宗教教育についても変化が見られるようになった点である。本研究では、この点をトルコの公教育における宗教教育を事例に取り上げて明らかにした。イスラーム教徒が国民の圧倒的多数を占めるトルコでも、2000年以降、宗教教育の内容に変化が見られ、イスラーム以外の宗教を紹介しながら、イスラームと他宗教との違いを肯定的に捉え、他宗教に対する理解と寛容を促すものになっている。こうした変化は、従来のように宗教教育を通して国民共通の基盤として宗教を教え込むことで国民統合を図るだけでなく、他宗教に対する理解と寛容を全国民に教えることも必要となってきたことを示している。つまり、社会の多文化化の進行に伴い、共通の価値観を教え込むという価値教育の伝統的な機能だけではなく、多様な価値観に触れさせることで多様な価値観に対する理解と寛容の必要性を教え、また多様な価値観と比較することで自らの価値観を批判的に検討するような価値教育の機能が重視されるようになっているのである。こうした観点から公教育における価値教育のあり方を検討することが我が国でも求められる。