著者
宮川 幸三 王 在喆
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.69-120, 2013-12-20

本研究の目的は,日中貿易が日本の国内産業に及ぼした影響の大きさを,付加価値誘発額と雇用誘発人数という2 つの視点から明らかにするものである.日中貿易が日本経済に与えた影響としては,以下の2 つを考えることができる.1 つは,中国における最終需要あるいは中国からその他世界への輸出によって,日本国内の生産が誘発される効果であり,これは中国経済が日本経済に及ぼすポジティブな効果であるといえる.もう1 つの効果は,中国からの輸入の増大によって日本国内の生産が減少する効果であり,これはネガティブな効果であると考えられる.本研究では,日中国際産業連関表の分析モデルに企業規模の概念を取り込み,大企業の生産活動と中小企業の生産活動を異なる部門として取り扱った規模別日中国際産業連関表を用いて,上述の2 つの効果を計測している.国際産業連関表において規模別の概念を取り込んだ事例はこれまでにないものであり,このような規模別日中表を試算したこと自体も本研究の成果の1 つである.分析の結果,ポジティブな効果に関して言えば,中国への輸出によって製造業の大企業に誘発された付加価値額が中小企業に比較して大きいこと,雇用面では中小企業に発生した雇用誘発人数が大企業に比較して大きいことなどが明らかとなった.一方でネガティブな効果に関しては,中国からの輸入増加によって国内中小企業が生産・雇用の両面においてより強い減少圧力を受けていたという結果が得られた.また部門別の結果から,受ける影響の大きさは部門によって大きく異なっていることが示された.