著者
村山 尊司 沼田 憲治 高杉 潤 宮本 晴見
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.182-188, 2004-06-20

左頭頂栗皮質下出血後,起居動作や立ち上がり動作が拙劣となり,垂直位での立位保持に障害を来した症例について,病巣および臨床所見を検討し,その要因について考察した。頭部画像所見では左上・下頭頂小栗の皮質下に出血巣を認め,臨床所見は視覚性運動失調,関節定位覚障害などの頭頂連合領域の損傷に関わる所見を呈していた。動作や姿勢保持では自己の姿勢や身体状況を的確に定位できず曖昧な内観を示していた。頭頂連今野は高次の体性感覚情報,運動に関連した視覚や体性感覚,平衡機能を統合する機能を有し,姿勢の識別や自己運動の知覚に関わると考えられていることから,動作場面での曖昧な内観及び拙劣な行為は頭頂連合野の機能障害に起因したものと推察された。立位保持では,視覚的な垂直軸判断に問題はなく,自己の主観的な判断(姿勢及び内観)で誤りが認められたが,左頭頂栗皮質下損傷により,姿勢制御に必要な身体情報入力の頭頂連合野での統合過程でdisconnection(離断)が生じたためと推察された。本症例が示した所見は,基本的な動作や立位保持など,半ば自動的に実行される全身的運動における頭頂連今野の役割を示唆するもので,その障害は体性知覚,視覚,前庭系など,多感覚の統合過程の障害に起因したものと考えられた。