著者
揚戸 薫 高杉 潤 沼田 憲治 大賀 優 村山 尊司
出版者
脳機能とリハビリテーション研究会
雑誌
脳科学とリハビリテーション (ISSN:13490044)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-30, 2007 (Released:2018-11-13)
被引用文献数
2

今回, 著明な情動障害を呈した脳底動脈瘤術後脳梗塞例について, 脳画像と臨床徴候の経時的変化を追って分析した. 症例は31歳, 女性. 発症後2ヶ月のMRI所見は, 右側脳室の拡大, 右海馬・扁桃体の萎縮, 右視床前部および内側領域に梗塞巣と左視床前部および内側部に動脈瘤による圧迫を認めた. 情動障害については, 幼児化傾向, 易興奮性, 多幸を特徴とした. 発症後1年3ヶ月後では, 多幸傾向は軽度残存したが, 幼児化傾向, 易興奮性は消失した. MRIでは, 右視床と右辺縁系には依然病変を認めたが, 左視床では所見は認められなかった. 視床病変に基づく情動障害例は, 一側性病変では稀で両側性に多く見られ, 本症例もこれら障害像と酷似していた. 以上から本症例の一連の情動障害の原因病変は, 右側の視床および辺縁系に加え, 左視床の関与によって, より顕著で特異的な, かつ遷延した障害を呈したと考えられた.
著者
高杉 潤 樋口 大介 杉山 聡 吉田 拓 松澤 大輔 沼田 憲治 村山 尊司 中澤 健 清水 栄司
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.124-125, 2011-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
12

触刺激される体肢の鏡像の観察によって誘発される体性感覚(referred sensation:RS)の有無や程度には個人差があることが知られている。しかしなぜ個人差が生じるのか調べた研究はなく,個人因子は明らかになっていない。本研究は,RS誘発には個人の持つ共感能力の高さが要因にあると仮説を立て,Empathizing Quotient(EQ)を用いてRSとの関係を明らかにすることを目的とした。23名の健常者を対象にRS誘発課題とEQ課題を実施した結果,EQおよびEQの細項目のひとつ,emotional reactivity(ER)の得点とRSの程度との間に正の相関が見られた。視覚―体性感覚の共感覚とERとの間に相関が見られるとするBanissyらの報告と今回の結果が合致することからも,RS誘発の個人因子のひとつとして,個々の共感能力の高さが関与していることが示唆された。
著者
北郷 仁彦 戸坂 友也 村山 尊司
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.10, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 今回、左視床出血で反対側の右上下肢に小脳性の運動失調を呈した症例を経験したのでその症候を分析し報告する。 【症例】 70代、男性、右利き。診断名:左視床出血。現病歴:仕事中に右片麻痺出現にて救急搬送。保存的加療を行い麻痺は徐々に改善。発症から1カ月後、当センター転院。なお本症例には発表について文書にて説明し同意を得た。 【結果】 <発症2ヵ月後>画像所見:左視床外側部および左放線冠に低吸収域。神経学的所見:意識清明。コミュニケーションは日常会話レベル可能。錐体路徴候;深部腱反射は右上下肢亢進。運動麻痺はBr-stage右上下肢V。体性感覚は表在覚、深部覚とも左右差なし。協調性検査は右上肢は鼻指鼻試験、Arm stopping testで陽性、リーチ動作全般に企図振戦が見られた。右下肢は足趾手指試験、踵膝試験で陽性。体幹はRomberg sign陰性で、動作時の動揺も認められなかった。神経心理学的所見: MMSE 16/30点。病識あり。動作所見:移乗動作では右上肢で支持物を把握するときに振戦が見られた。食事場面ではスプーンが口唇に近づくにつれ振戦が大きくなり食物のこぼれが見られた。歩行は右下肢の振り出し時に運動失調が認められT字杖軽介助レベルであった。 【考察】 視床損傷による運動失調は視床外側部に位置する後外側腹側核(以下VPL)や外側腹側核(以下VL)に起因すると言われている。VPL損傷では感覚性の運動失調、VL損傷では小脳性の運動失調を呈する。視床損傷による小脳性の運動失調は視床性運動失調と言われ、さらに運動失調と同側に運動麻痺を伴うとAtaxic hemiparesis(以下AH)とされる。しかしVPLとVLは隣接するため視床損傷で小脳性の運動失調のみ出現することは極めて少ない。 本症例は左視床出血を発症し右上下肢に企図振戦などの運動失調が見られたが、感覚障害を伴わなかった。このことからVL損傷に起因する視床性運動失調と推察された。また右上下肢に運動麻痺も見られることからAHであると推察された。本症例はVL損傷により小脳性の運動失調が生じるという諸家の報告を裏付ける結果となった。また退院時の屋内移動手段は下肢の運動失調により杖歩行が自立に至らず、歩行器歩行であった。 【まとめ】 運動麻痺と同側肢に運動失調を呈すると運動麻痺に重複され運動失調が見逃されやすい。運動麻痺と運動失調の重複は予後に影響する可能性がある。画像所見や臨床症状から運動失調の存在を見逃さないことが重要で今後症例を積み重ね予後予測や治療方法について検討していく必要がある。
著者
小針 友義 村山 尊司 松澤 和洋 井上 晃穂
出版者
脳機能とリハビリテーション研究会
雑誌
脳科学とリハビリテーション (ISSN:13490044)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.35-40, 2018-08-31 (Released:2018-10-22)
参考文献数
22

近年,Constraint-Induced Movement Therapy(CI療法)のコンセプトが下肢麻痺に対しても応用されているが,その治療効果に関する報告は未だ乏しい.本研究の目的は,慢性期脳卒中下肢麻痺症例に対するCI療法のコンセプトを応用した下肢集中訓練が臨床的アウトカムに及ぼす影響を検証することである.左視床出血と診断された40歳代の男性を対象とした.発症から489日後に下肢集中訓練を開始した.本訓練は1日3.5時間を平日5日間,3週間実施された.評価にはFugl-Meyer Assessmentの下肢項目,10 m歩行テスト,Timed Up and GO test(TUG),Berg Balance Scale(BBS),6分間歩行テスト(6MWT)を使用した.下肢集中訓練実施前後で10 m歩行テスト,TUG,BBS,6MWTに向上がみられた.慢性期脳卒中片麻痺者に対するCI療法のコンセプトを応用した下肢集中訓練は歩行能力やバランス能力の向上に影響を及ぼす可能性がある.
著者
揚戸 薫 高橋 伸佳 高杉 潤 村山 尊司
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.62-66, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

遷延性の道順障害を呈した 1 例における移動手段獲得のためのアプローチについて検討した。通常の地図を見ながらの移動訓練は有効ではなく,これは移動中の各地点で自分の向いている方角が地図上でどの方角にあたるかを判断できないことが一因と考えられた。そこで視覚的手段は用いず,目的地まで道順に沿って目印となる指標や分岐点での進むべき方角を言語的に記述したメモを用いたところ非常に有効であり,さらにそれを言語的に記憶することでメモなしでの移動が可能となった。道順障害は,症状の持続が短期間のことが多いが,病院内の移動などには大きな支障をきたす。本例で用いたような言語メモを活用したリハビリテーションは,道順障害での方角定位障害を代償する手段として有効であり,早期から積極的に取り入れるべきと考えられる。
著者
川上 貴弘 村山 尊司 佐藤 仁俊 石原 未来 大塚 栄子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P3090-B4P3090, 2010

【目的】外傷性脳損傷(以下TBI)は急性期に意識障害をはじめとした多様な障害像を呈する。そのため受傷後の短期的な医学的リハビリテーションでは治療効果や長期的な予後予測が困難な事例が多い。今回、発症後25ヶ月経過した慢性期TBI例を経験した。本例は当センター医療施設及び障害者支援施設にて19.5ヶ月の加療の結果、入院時ADL全介助から屋外歩行にてADL自立レベルまで改善を認めた。本例の臨床経過の特徴と慢性期における包括的リハビリテーション支援の必要性について述べる。<BR><BR>【方法】<症例>33歳 男性 右利き。診断名:TBI。現病歴:2006年1月飲酒後階段より転落。頭部CTにて急性硬膜下血腫を認め、減圧開頭血腫除去術施行。同年3月にV-Pシャント術施行。意識障害・四肢麻痺・嚥下障害が遷延し、同年5月某リハビリテーション病院転院。その後、12月に療養病院にて加療するも改善認めず、2008年2月更なるリハビリ目的にて当センター転院。同年9月障害者支援施設へ転所。2009年10月現在、同施設入所中。<BR>既往歴:特になし<BR><BR>【説明と同意】今回の発表にあたり患者の同意を書面にて得た。<BR><BR>【結果】<入院時所見(発症後25ヶ月)>神経学的所見:意識清明。コミュニケーションは言語にて可能。著明な自発性低下あり。運動麻痺はBr-stage両側上下肢6にて分離運動良好、感覚障害は認めず。両側上下肢に固縮様の筋緊張亢進を呈した。両下肢に著しい関節可動域制限及び筋力低下を認めた。神経心理学的所見:全般知能はMMSE;19/30点。FAB;13/18点。TMT:Set1;1597秒誤り10,Set2;実施不可。Kohs立方体:実施不可。WCST:実施不可。動作所見:起居動作・坐位保持は介助にて可能であったが、立位を伴う動作は両下肢の拘縮とクローヌスが著しく困難であった。歩行は平行棒内全介助レベル。ADL:FIM;48/126点(運動項目28点、認知項目20点)。<医学的リハビリテーション経過>発症後25ヶ月~31.5ヶ月の期間当センター医療施設にて医学的リハビリテーションを実施。退院後は関連施設である障害者支援施設更生園への入所を目的としていた。入院時より頭部CTにて脳室拡大を認めた為、入院後1ヶ月に水頭症改善を目的としたV-Pシャント術を施行。並行してPT,OT,STによる運動療法及び認知訓練を実施した。V-Pシャント後自発性改善を認め、それに伴い身体・認知機能も向上した。発症後28ヶ月の時点でMMSE30/30点、歩行器歩行軽介助レベルに至った。退院時(発症後31.5ヶ月)の状況は、基本動作は自立、歩行は歩行器歩行監視レベル、階段昇降も監視にて可能となった。高次脳機能障害に関しては、対人関係トラブルを頻発するなど社会的行動障害がみられるようになった。ADLはFIMにて101/126点(運動項目74点、認知項目27点)。<社会的リハビリテーション経過>発症後31.5ヶ月~44.5ヶ月の期間当センター障害者支援施設にて社会的リハビリテーションを実施(現在も継続)。本例は両親との同居を目標に社会生活プログラムに沿った機能訓練及び生活訓練を実施した。発症後38.5ヶ月で実用的な移動手段は車いすから歩行へ移行し、屋内T杖歩行自立となる。発症後42.5ヶ月でADL自立、屋外(施設敷地内)独歩自立に至った。発症後44.5ヶ月でのADLはFIMにて114/126点(運動項目85点、認知項目29点)。身体機能については著明な改善を認めたが、脱抑制・易怒性のような社会的行動障害が強くなり、間食や対人関係トラブルといった施設生活上の問題が顕著となった。退所後は地域の就労支援センターへ移行する予定。<BR><BR>【考察】TBIの長期経過として運動機能の改善は良好とされる一方、社会的行動障害のような高次脳機能障害は遷延することは橋本らが報告しており長期的なリハビリテーションフォローの必要性を指摘している。本例においても、発症後25ヶ月から19.5ヶ月のリハビリテーション介入により身体機能は著しく向上し歩行及びADL自立に至ったが、高次脳機能障害は残存した。これは一般的なTBI患者の長期経過の特徴を示すものであった。しかし、本例は発症後25ヶ月が経過していたのにも関わらずADL全介助から自立に至るという良好な経過を示した点が特異的であった。この背景には、V-Pシャント術による自発性の向上に加え、医学的リハビリテーション及び継続した社会的リハビリテーション支援の効果を示すものであった。TBI例では、慢性期においても積極的な医学的治療と長期リハビリテーション支援の必要性が示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】慢性期TBIにおいて積極的な支援により良好な結果が得られた。本報告は、TBI例に対するリハビリテーションの可能性を示唆した。
著者
村山 尊司 沼田 憲治 高杉 潤 宮本 晴見
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.182-188, 2004-06-20

左頭頂栗皮質下出血後,起居動作や立ち上がり動作が拙劣となり,垂直位での立位保持に障害を来した症例について,病巣および臨床所見を検討し,その要因について考察した。頭部画像所見では左上・下頭頂小栗の皮質下に出血巣を認め,臨床所見は視覚性運動失調,関節定位覚障害などの頭頂連合領域の損傷に関わる所見を呈していた。動作や姿勢保持では自己の姿勢や身体状況を的確に定位できず曖昧な内観を示していた。頭頂連今野は高次の体性感覚情報,運動に関連した視覚や体性感覚,平衡機能を統合する機能を有し,姿勢の識別や自己運動の知覚に関わると考えられていることから,動作場面での曖昧な内観及び拙劣な行為は頭頂連合野の機能障害に起因したものと推察された。立位保持では,視覚的な垂直軸判断に問題はなく,自己の主観的な判断(姿勢及び内観)で誤りが認められたが,左頭頂栗皮質下損傷により,姿勢制御に必要な身体情報入力の頭頂連合野での統合過程でdisconnection(離断)が生じたためと推察された。本症例が示した所見は,基本的な動作や立位保持など,半ば自動的に実行される全身的運動における頭頂連今野の役割を示唆するもので,その障害は体性知覚,視覚,前庭系など,多感覚の統合過程の障害に起因したものと考えられた。