著者
Kotenko P. 宮浦 理恵
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.11-19, 2019 (Released:2019-11-14)

ウクライナは1000年以上にもわたる養蜂の歴史があるが,その発展過程でさまざまな課題があった。独立後のウクライナの経済危機下で,各家庭の養蜂生産は重要な収入源として拡大し,2015年には全蜂蜜生産のうち98.9%が家族養蜂場で収穫された。全家庭の4.1%が養蜂を行っていることになる。養蜂とミツバチ製品の加工は伝統的であり,地域の食農文化に基づいて多様に分化している。国内25地域から11変数を用いて,主成分分析とクラスター分析を行い,生産環境と養蜂条件の地域特性を明らかにした。主として西部のクラスター1,中部のクラスター2,および南東部のクラスター3の3つが定義された。クラスター1は,森林や野生植生が多く,農用地面積と家族養蜂場は少ないが,企業養蜂場の蜂蜜の価格は高い。クラスター2は森林ステップ地帯で農業生産が盛んである。企業養蜂場の蜂蜜生産量は最大であるが,価格は低い。クラスター3は農業および工業の発達した地帯で,蜜源作物の面積が大きいため,蜂蜜の生産性は最も高い。地域によってそれぞれリスク管理,生物文化多様性の維持,食農文化の維持,生態系サービスの強化などによる養蜂環境改善のためのアプローチが必要であることが示された。ミツバチ製品の消費者行動調査では,ハチミツだけでなく,さまざまな種類の製品を消費していることがわかった。回答者の85%が家族や友人からの製品を入手することができ,多くは企業養蜂場より家族養蜂場の製品を好んでいることが明らかとなった。消費者は,養蜂家から得られる蜂蜜の生産地域,蜂蜜の種類に関する直接的な情報を信じており,蜂蜜品質の認証を重視していなかった。