著者
宮部 峻
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.75-98, 2023-06-30 (Released:2023-09-08)

本稿の目的は、一九八一年に改正された真宗大谷派の『宗憲』の改正過程を事例に、法学が教団組織の近代化に与えた影響を考察することである。大谷派の『宗憲』改正、それによる宗務機構の近代化は、精神主義運動を展開した清沢満之のエートスの影響に着目して論じられてきた。しかし、大谷派の『宗憲』改正は、宗教的権威である法主が宗教法人の代表を兼ねることをめぐって生じた。本願寺の歴史的状況、明治以来の法整備の過程で生じた法主の地位について、教学・教団史にもとづいて問い返すだけでなく、法律上の位置づけについても見直す必要があった。法学の立場から『宗憲』改正に重要な役割を果たしたのが法社会学者の川島武宜であった。本稿は、『宗憲』改正過程に照準を合わせて、『宗憲』改正に対して法学による正統化が必要とされた背景、教学と法学それぞれの立場がどのように正統化したのかを論じる。この作業を通じて、仏教教団の近代化を宗教と法の関係史の文脈に位置づける。