著者
澁谷 正俊 富澤 正樹 高橋 道康 谷口 孝彦 小笠原 國郎 岩渕 好治
出版者
日本薬学会化学系薬学部会
雑誌
反応と合成の進歩シンポジウム 発表要旨概要 第29回反応と合成の進歩シンポジウム
巻号頁・発行日
pp.212-213, 2003-09-24 (Released:2004-03-16)

ダイヤモンドの基本構成単位に相当する高度な対称性を有する三環性脂環式炭化水素:アダマンタンは医薬品素材として極めて重要な位置を占めている。例えば、パーキンソン病治療薬ならびにA 型インフルエンザ予防薬であるアマンタジンを始め、合成レチノイド、NMDA 型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、抗腫瘍剤など多様な薬剤分子の生理活性発現に関与している。アダマンタンは創薬化学における有用素子として、その官能基化と誘導体化に関する研究が盛んに行われているが、意外にもその分子上へのキラルな要素の導入に関しては、広瀬らの豚肝臓アルコールデヒドロゲナーゼを用いた置換2-アダマンタノンの不斉還元ただ一例が知られるのみであった。我々は、アダマンタンの創薬資源としてのさらなる可能性に興味を抱き、その母核上へのエナンチオ制御下の効率的官能基導入法を開発すべく検討を開始した。その結果、入手容易なσ-対称性7-メチレンビシクロ[3.3.1]ノナン-3-オンのエナンチオ特異的修飾と、その生成物のアダマンタン核への閉環という2つの工程を鍵として、アダマンタンの不斉修飾への途を拓くことができた(Scheme 1)。本シンポジウムでは、その経緯とともに本手法のキラルα-アダマンチル-α-アミノ酸合成への活用について報告したい。【7-メチレンビシクロ[3.3.1]ノナン-3-オンのエナンチオ選択的修飾】村岡らの報告に従って合成した7-メチレンビシクロ[3.3.1]ノナン-3-オンのケトン部周辺へのエナンチオ選択的な官能基の導入を検討した。キラルリチウムエノラートを生成後、ベンズアルデヒドとの不斉アルドール反応を行ったところ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離可能な2 種のジアステレオマー混合物(生成比10:1)が得られた。収率79%、89% ee で得られる主成績体は一回の再結晶によって、光学的に純粋とすることができた。一方、エキソメチレン部を足場とするエナンチオ非対称化については未だ良好な結果を得るには至ってないが、エキソメチレン体から4 工程を経て導かれるラセミアリルアルコールが香月–Sharpless 不斉エポキシ化反応下に速度論的分割を受け、高光学純度(96%ee)のアリルアルコールを与えることを見いだした(Scheme 2 )。【7-メチレンビシクロ[3.3.1]ノナン-3-オン誘導体のアダマンタンへの閉環反応】上述のようにして得た7-メチレンビシクロ[3.3.1]ノナン-3-オン誘導体を基質として、Olah らの条件に準じてアダマンタンへの閉環反応を検討した。その結果、いずれの場合も0.35 当量の四塩化チタン存在下、塩化メチレン中、–30℃で速やかに閉環反応は進行し、光学活性なアダマンタン誘導体を与えた(Scheme 3 )。ここで、アダマンタン核への多様な官能基導入法の開発という観点から、オキシムエーテルへと導き、このものの閉環反応を検討した。その結果、オキシムエーテルもケトン体と同様にルイス酸条件下、種々のヘテロ原子求核剤と速やかに反応して良好な収率で1,3-置換アダマンタン誘導体を与えることを見いだした。【キラルα-アダマンチル-α-アミノ酸の合成】アルドール成績体を光延条件下アジドへと変換した後、閉環条件に付し、高収率でアダマンタンを得た。アミノ基への還元、保護、ベンゼン環の酸化を経てキラルα-アダマンチル-α-アミノ酸を合成した(Scheme 5)。また、キラルシリルエノールエーテルとイミンとのMannich 反応と閉環反応の組み合わせによる短工程合成も達成した(Scheme 6)。