著者
實 清降
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
no.11, pp.109-126, 2003

公共交通は地域住民の足である。第二次大戦後、都市を郊外へと発展させていった原動力として「車」の役割は大きい。米国を始め新大陸の国々では特に顕著である。米国では、強引な自動車資本の政界工作によって「路面電車」は忽然と都市交通からその姿を消してしまった。然し、近年情況が変わってきた。高齢化、環境にもやさしいまちづくりが喧伝され、公共交通のもつ比重がとみに増した。LRTの増設、「バスの無料化」など、環境にもやさしい交通を軸にしたまちづくりが進んでいる。日本も傾向としては米国と同じである。だが、公共交通政策が「独立採算」をベースになされたために、民鉄、バス、とりわけ、路面電車はドラスティックな消滅を余儀なくされた。現在、日本は急速に「高齢者大国」になり、「交通弱者大国」の様相を呈してきている。ここに、交通弱者の「公共交通民権」を補償する責務が生じ、「公共交通」を軸にしたまちづくりの取り組みが始まった。例えば、「路面電車を充実し、可能な限りLRTを導入」とか「コミュニティバスの導入」がそれである。当論文で日米の公共交通をベースに据えたまちづくりの取り組みの比較を試みた。