著者
永田 崇 寺北 明久
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.175-181, 2019-12-20 (Released:2020-01-10)
参考文献数
27

動物は環境の光から多くの情報を得るために,光受容タンパク質オプシンを使ってさまざまな光受容を行っている。 オプシンは吸収波長特性や生化学的性質などにおいて多様な特徴を示すので,動物の光受容の仕組みを理解するためにはオプシンの性質を知ることが重要である。特に視覚の発達した動物においては,オプシンの吸収波長特性が,眼や網膜の光学的な性質とも関連しながら視覚機能において重要な意味を持つ。筆者らは視覚が発達し,特殊な構造の網膜を持つハエトリグモの複数のオプシンについて,それぞれの吸収波長特性や機能について解析を行ってきた。網膜に発現する1種類のオプシンの吸収波長特性は,網膜の構造との関係によりピンぼけを生じさせ,それによって奥行き知覚のメカニズムを支えていることが示唆された。また,そのような吸収波長特性を生じさせる分子メカニズムにおいて,発色団レチナールの近傍に存在する水素結合系が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。本稿では,このようなオプシンの吸収波長特性の生理的意義や波長制御について筆者らの研究成果を中心に紹介する。
著者
寺北 明久
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.3-9, 2006-01-30 (Released:2007-10-05)
参考文献数
27

脊椎動物の視覚の光受容体ロドプシンは, G蛋白質共役型受容体 (GPCR) の一種であり, 唯一3次元立体構造が決定されるなど, GPCRの中で最も研究の進んでいる蛋白質の1つである。一方, 他のGPCRがアゴニストと呼ばれる外来性の化学物質 (ホルモンや神経伝達物質) を結合して活性化されるのと対照的に, ロドプシンは分子内にインバースアゴニスト (アンタゴニスト) と呼ばれる不活性化物質11-シス型レチナールを結合しており, 光エネルギーを使ってそれをアゴニストである全トランス型レチナールに変換して活性状態になる。著者らは, 頭索動物ナメクジウオの光受容体が, 脊椎動物のロドプシンと同様にアンタゴニストと結合して光で活性状態になるのみならず, アゴニストである全トランス型レチナールを直接結合して活性化される能力も持っていることを発見した。このロドプシンが示す一般のGPCR様の性質と光受容体としての性質とについて詳細に解析した結果, ロドプシンの分子進化過程で備わった視覚の暗ノイズを低下させるための分子機構についての知見も得られた。また, ナメクジウオロドプシンの新しいロドプシンモデルとしての可能性についても考察する。