著者
寺尾 隆吉
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、1990年代以降のラテンアメリカ小説に着目し、権威主義的政治体制をテーマとした小説の例としてニカラグアの作家セルヒオ・レミレスの『海がきれいだね、マルガリータ』(1998)と『ただ影だけ』(2002)や、グアテマラのロドリゴ・レイ・ロサの『聖域なし』(1998)、エル・サルバドルのオラシオ・カステジャーノス・モヤの『蛇とのダンス』(2003)と『崩壊』(2006)、メキシコのフアン・ビジョーロの『証人』(2004)などをとりあげて研究した。特に文学による想像力を駆使することで読者への行動を促し、独裁的政治体制の意味を問いただすという側面がいずれの作品にも共通する点に着目して、論文にまとめていった。前年度に引き続き、ベネズエラの作家エドノディオ・キンテロ氏の全面的な協力を得て、作家たちに直接インタビューができたことは大きな成果となった。ここにあげた作家の中では、レイ・ロサ氏とカステジャーノス・モヤ氏からは貴重な話を聞くことができた。今のところまだ論文業績にはしていないが、彼らとのインタビューはメキシコの出版社より近く出版する予定である。論文としては、「セルヒオ・ラミレス『海がきれいだね、マルガリータ』-ルベン・ダリオと独裁者象」を書き上げ、ベネズエラのメリダにおける国際学会で発表した。近くベネズエラの学術雑誌に出版されることが決定している。また、ラテンアメリカ文学特有の文学潮流とされる「魔術的リアリズム」と独裁者小説の関係についても考察を広げ、これまでの成果を集大成する形で『ラテンアメリカ文学の魔術的リアリズム』というタイトルの本を執筆し終えた。こちらも平成20年度中には日本で出版の予定。