著者
寺田 充樹
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2020-03-25

本研究ではIoT技術をこれまで経験とカンに頼ってきた養蜂に導入し,プロでも現地で巣箱の内外を観察しなければわからないことを遠隔でモニタするシステムの開発と評価を行った.外気および巣箱内の温湿度,重量,二酸化炭素濃度を計測し,スマートフォン等でその変化をモニタするセンサシステム,そして早期対応が必須であるスズメバチの襲来を機械学習モデルによって検出するカメラシステムを,安価なマイコンボードESP32およびRaspberry Piを用いて実装した.温湿度センサ,重量センサ,二酸化炭素センサは試験的に1群のみにセンサを設置したが,そこではダニや分蜂等の異常は発生しなかったため異常検知はできなかった.しかし,遠隔モニタで巣箱の温湿度や二酸化炭素濃度は一定に保たれ正常であることや重量変化からミツバチの群勢や採蜜時期の判断材料になるなどの有用性が示された.機械学習を用いたスズメバチの物体認識ではWebの写真やビデオ撮影した動画から切り出した500枚の画像データを用いて,ImageAI,TensorFlow,TensorFlow Lite環境で比較評価した.TensorFlow Liteは42.6%の精度で他よりも低いが処理速度がImageAIの20倍,TensorFlowの30倍以上高速であった.そこで,学習データを900枚増やしたデータセットでは92.9%の検出率を得ることができた.誤検出も多少生じたが,検出を正解とする閾値を高くすることで誤検出をなくすことができることを示した.また,Raspberry Piの各モデルやエッジAIデバイスで処理速度・容量を比較し,価格面や複数台のカメラを接続させた時のFPSを考慮すると7,700円で10台のカメラを1台あたり1fps以上で処理できるRaspberry Pi 4 model Bが適当だった.実際に養蜂場に設置した想定で防水ウォールボックス内にRaspberry Pi 4 model Bとモバイルルータを入れ,ESP32と距離を離した時の8m以上距離を置くと接続が切れることがわかった.さらに,スズメバチの検出の手法をミツバチの個体数のカウントに応用し,誤差7~22%という結果が得られた.精度向上に向けてまだ多くの改善の余地が残されているが,これは先行研究の誤差2倍以上と比較して極めて高い精度である.また,この結果からIoTやAIを応用した養蜂の研究が,いかに初期の段階であるかを物語っている.機械学習による映像解析は,巣門前の個体数だけでなく,採蜜のために出入りするミツバチの数だけをカウントすることで活動状態を調べたり,巣箱を開けて巣枠に密集している蜂の状態を全体で観察して群の個体数を把握したり,またそれぞれの働きバチが持つ役割を解析したりと様々な応用が考えられる.本研究ではその大きな可能性を示すことができた.