著者
藤本 正行 寿岳 潤
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、未だ発見されていない、われわれの宇宙の最初に形成された恒星=種族III星の探索の可能性について、理論的、観測的に検討を加えることである。これら恒星は、ビッグ・バンで合成された始原物質からなり、全く、炭素以上の重元素を含まず、また、宇宙史の極初期に形成されたので現在も核燃焼段階にあるのは、初期質量が太陽の約0.8倍以下の長寿命のものに限られる。これまで、種族IIIの低質量星は、ヘリウム燃焼が始まる段階で窒素過多の炭素星になることが知られているが、本研究では、連星系での質量交換も考慮に入れて、範囲を拡大した初期質量と初期金属量の関数として、進化の描像を求め、[Fe/H]<-2.5の超金属欠乏星は、金属量の多い若い種族と異なった、炭素星の形成機構を持つことを示した。この結果は、現存の金属欠乏星で炭素星の割合が増加することを説明する。理論的に、金属欠乏星の特性、その同定に必要な観測的な特徴を明らかにするとともに、この結果を踏まえて、これまでの観測で種族III星が発見されていないことがその不在を意味するのか否かについての批半的な検証を行った。明らかになったのは、現存の探索で用いられたカルシウムのH、K線は、種族III星の探索に効率が悪いこと、それに替わって、炭素と窒素の分子線を用いて窒素過多の炭素星の中に種族III星の侯補を探る新たな方法を提唱した。窒素と炭素の組成比を使えば、さらに、超金属欠乏星との識別も可能であることを示した。それと平行して、共同研究者と協力して、東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡で2KCCDを用いて試験観測を行い、それを通して、提唱した探索方法の実行可能性、優位性を証明することができた。