著者
樫尾 博 小倉 昇
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-22, 1999-03-31

本論文で扱う電力,ガス等の公益事業の利益管理は,他の産業といくつかの点で異なる特徴を持つ.1)サービスの価格(コスト)と設備利用率との関係需要の平準化による設備利用率の向上がコストの低減,利益の増大,サービス価格の低下に結びつく.2)公共サービスに対する利用者選択の硬直性規制料金のため,柔軟な料金設定ができない.また,利用者側でもサービスを利用するために初期投資が必要で,一旦選択すると簡単には代替サービスに移行できない.3)利用者のサービス購入価格とサービスの社会コストのコンフリクト関係一般的に既存サービスの利用機器の価格は,新サービスの利用機器の価格を下回る.一方,サービスの利用量が増加し,設備能力の上限に達すると,サービス提供に機会原価が生じるが,公共料金では機会原価を反映した価格設定は難しい.本論文では2つの代替的な公益サービス(電力とガス)の設備利用率のアンバランスに着目し,需要を平準化させるためのコントロールの手段として,利用者の機器導入時における補助金政策を提案する.電力会社とガス会社をそれぞれプレーヤーとみなし,ビル空調需要家の獲得を非協力ゲームとして定式化し,以下の2ケースについて定量的に分析し,負荷平準化による利益管理の提案を行う.1)現状の規制を前提として,電力会社は電気蓄熱式に,ガス会社はガス空調に対し補助金を出す.2)規制緩和を前提として,電力会社がガス会社のガス空調に対しても補助金を出す.東京電力と東京ガスについて数値例に適用してみたところ,現実には両者が熾烈な競争をしている事実に反し,規制緩和されると電力会社がライバルのガス空調に対しても機器導入時に利用者に補助金を出せば,より利益を上げることが可能なことを定量的に示すことができた.