著者
小南 淳子 Kominami Junko コミナミ ジュンコ
出版者
大阪大学日本語日本文化教育センター
雑誌
大阪大学日本語日本文化教育センター授業研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.39-55, 2011-03-31

映画『恋は五・七・五! -全国高校生俳句甲子図大会-」を使って、上級会話の授業を、数学期にわたって少しずつ変化させながら展開してきた。"若者の日常的な会話表現を、映像を通じて理解する"という単純な動機から選んだ教材の一つであったが、授業で用いているうちに、映画そのもののユニークな内容と展開にも助けられて、アンケートやインタビューの実施、日本社会や文化の諸様相についての考察、またそれらの口頭発表というように、会話授業の諸要素を入れながら13回の授業としてまとまりをもたせることができてきた。そして、その最終形は、俳句づくりから合評会(句会のまねごと)までを何度か取り入れたものになった。俳句について説明したいことは多くあるのだが、実習の授業であることから、講義が多くなることは好ましくない。そこで、内容理解のための最低限の知識をいかにして与えるかを考えなくてはならないが、映画の中に出てくる授業風景の中の板書をそのまま利用したり、登場人物の会話を用いたりしながらの説明をこころがけることで、実習時間の確保に努めた。帰国子女である主人公が、俳句を詠むことを通じて日本の文化や心になじんでいくプロセスは、留学生にとって共感できるものであるし、また、映画の中で俳句初心者のメンバーが、徐々に俳句に必要な「季語」「切れ字」を学んでいくにつれて、受講者の詠む俳句も、週を追ってレベルアップしていくことになる。(俳句甲子園の競技形式をそのまま授業内で復元することは難しいので、句会はNHKBS放送の『俳句王国』の形を借りている。)そして少ない回数の授業の中であっても、学生たちは、互いに自由に鑑賞をし、意見を述べ合い、やがて「作り手と読み手の思いが違うこともある」 が、「そこがまたおもしろい」といった俳句の本質的な理解に到達さえする。視聴覚教材としての映画の選択基準について考察するとともに、その基準にしたがって選んだ映画を用いた授業の、試行錯誤の末の一つの展開例として、報告したいと考えている。