著者
小山 省三 小口 国弘
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.511-516, 1980-05-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11

ホルマリンによる腐蝕性胃炎は極めてまれであるが,養蚕用消毒液としてのホルマリンを誤飲した2例を経験した.症例1は67歳の男性で,誤飲後一時的にショック状態を呈したが,ショック状態より離脱後,第17病日の胃X線検査では小弯の短縮,浮腫,胃粘膜の不整,乱れ,不整形のバリウム斑,さらにトライッツ靱帯近くの十二指腸と空腸の拡張低下部を認めた.さらに第31病日には幽門狭窄症状が出現し,胃X線検査では胃壁の拡張は悪く,ノウ胞状の形態を示しさらに胃内視鏡検査では,発赤,出血,浮腫,ところどころに白苔さらに著明な凹凸と多彩な所見を呈し幽門狭窄が高度のため,胃亜全摘術と胃空腸吻合術を施行した.症例2は66歳の男性で,誤飲後12時間目に胃内視鏡検査を施行された.胃内腔全体が,凝固壊死に陥つた白苔で被われており,この白苔はわずかな刺激ではがれ,その白苔下には広汎な浮腫と充血を認めたが,誤飲後2週間目には軽度の浮腫を残すのみであつた.このようなホルマリンによる腐蝕性胃炎は,本報告例では清酒との誤飲で発症しており,ホルマリンの保管管理を充実する必要がある.さらにホルマリン誤飲例に対しては,急性期のショック状態に対する処置と同時に蛋白等による中和剤での胃洗浄を十分施行する必要があり,さらに長期観察中にホルマリンによる蛋白凝固作用で幽門狭窄の発生した場合や胃粘膜欠損による低蛋白血症が生じる様な際には,積極的な外科的処置が必要であり,やむなく残胃に病変が残存するような場合にも,病変を有する残胃と正常な空腸との間に,十分良好な創傷治癒が期待できると思われる.