著者
小宮 みぎわ 岡本 芳晴
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.35-41, 2022 (Released:2022-08-18)
参考文献数
18

家庭用塩素系洗浄剤(主成分は次亜塩素酸ナトリウム)の暴露により,呼吸器障害ならびに一過性心筋傷害が引き起こされたと考えられる猫の,詳細な臨床経過を観察することが出来たので,報告する。本症例は,第3病日に呼吸促迫を呈し,胸部X線検査では明らかな心拡大が認められた。胸腔内にわずかな胸水貯留,腹側にびまん性肺胞パターン,左右肺動脈の重度拡大が認められた。心エコー検査では右心系の拡張,心室中隔の扁平化,肺動脈の拡大,三尖弁と僧帽弁の逆流を確認した。第6病日には胸水貯留量の増加が認められたため,抜去した。血清心筋トロポニンIは8.441 ng/mlと著しく高値を示した。本症例はその後,治療に反応して次第に状態は改善し,第32病日に心拡大,三尖弁/僧帽弁の逆流が認められなくなった。3年が経過したが,本症例の血清心筋トロポニンは0.050 ng/mlであり,心エコー検査においても心筋症を疑う所見はない。