著者
片山 智博 細川 昭雄 藤井 洋子
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2019-09-05)
参考文献数
17

雄のペルシャネコ,13歳2カ月齢が,左眼が見えないとの主訴で来院した。眼底検査にて,眼底動脈の蛇行と網膜剥離が認められたことから,高血圧を疑い血圧を測定したところ,収縮期血圧は250 mmHgと重度の高血圧であった。心臓超音波検査では,バルサルバ洞から上行大動脈にかけて大動脈壁のフラップと偽腔が認められたことから,大動脈解離と診断した。高血圧症の治療としてエナラプリルマレイン酸塩およびアムロジピンベシル酸塩を併用したところ,収縮期血圧は150 mmHgに低下した。第275病日に食欲の低下と体重の減少が認められ,血液検査では,腎数値の上昇と貧血が認められた。慢性腎臓病の治療を行ったが,第284病日に自宅にて死亡した。ネコの大動脈解離は稀であり,病態や予後は不明である。ヒトにおいて,大動脈解離は短期死亡率が高く緊急疾患である。本症例は大動脈解離の診断後約9カ月生存し,過去の症例報告においても同様の傾向が認められることから,ネコではヒトとは異なる転帰をとる可能性があると考えられた。
著者
中宮 英次郎 宮川 優一 戸田 典子 冨永 芳信 斉藤 るみ 住吉 義和 高橋 真理 徳力 剛 前澤 純也 三原 貴洋 竹村 直行
出版者
獣医循環器研究会
雑誌
動物の循環器 = Advances in animal cardiology (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.41-47, 2011-12-01
参考文献数
12

2歳6カ月齢,去勢オスのノルウェージャン・フォレスト・キャットを各種検査に基づいて肥大型心筋症と診断し,エナラプリルの投与を開始した。第1357病日に左房の高度な拡大が見られたため,ダルテパリン療法を追加した。さらに,第1616病日に左房内に spontaneous echo contrast (SEC) が,そして第2155病日には左心耳内に血栓形成が認められた。本症例は第2229病日に死亡した。SECは拡大した左房内での血液うっ滞により生じ,ヒトでは心房内での血栓形成または血栓塞栓症の危険因子と考えられている。獣医学領域ではSECの臨床的意義に関する記載は極めて限られている。本症例はSECが確認されてから613日間生存したことから,血栓予防療法を含む心不全療法が的確に実施されれば,SECは必ずしも予後不良を示す所見ではないと考えられた。
著者
勝田 新一郎
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-14, 2021 (Released:2021-09-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1

血圧調節機構には短期調節機構と長期調節機構があり,前者は姿勢変換や運動,いきみ,精神的興奮などに伴う急な血圧変動を短時間に正常レベルに戻すための神経性調節機構である。後者は,分,時間,日,週,月さらに年単位に及ぶ調節機構で,腎臓から塩類と水の排泄による体液性調節が大きく関わっている。神経系やレニン–アンジオテンシン–アルドステロン系をはじめとする内分泌系は体液性調節を修飾している。Guytonらは摂取した塩類と水を腎臓がどのように排泄できるかを示すために,圧–利尿曲線の概念が構築された。腎臓の異常による圧–利尿曲線が高圧域へシフトした場合,または塩類と水を過剰摂取した場合はそれらを排泄するために高い圧が必要となり,血圧が上昇する。圧利尿が起きると血圧は元のレベルに戻る。近年では短期調節,長期調節ともに心臓血管中枢と呼ばれる延髄腹外側野(RVLM)やその周囲の領域を中心とした中枢神経系の関与が示されている。脳室周囲器官は血液–脳関門が比較的疎であり,その中の終板脈管器官で細胞外液Na+上昇が感知されると,それはRVLMにも伝えられ,交感神経活動が活性化されることが明らかにされている。また,脳内には末梢とは独立したレニン–アンジオテンシン系が存在し,脳内で産生されたアンジオテンシンIIはAT1受容体を介してNADPH oxidaseを活性化させ,活性酸素種(ROS)の産生を刺激する。これによってRVLMでの一酸化窒素(NO)の産生が低下し,RVLMに投射されるGABA作動性抑制性ニューロンの抑制効果は減弱されることが示されている。その結果,交感神経系は抑制されず活性化されることになる。今後,短期,長期血圧調節機構を問わず脈管系や腎臓などの末梢臓器や交感神経系,内分泌系のはたらきのみならず,それを制御する中枢神経機序を解明することが高血圧発症の解明や高血圧治療薬の開発に大きく貢献するものと思われる。
著者
才田 祐人 髙島 一昭 山根 剛 山根 義久
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.29-35, 2013 (Released:2014-09-12)
参考文献数
21

Cats diagnosed as aortic thromboembolism were performed with monotherapy using anticoagulant agent or combined therapy using thrombolytic agent, the efficacy of those therapies were discussed. Survival time, hours of forelimb or hind limb paralysis onset, palpable or not of pressure of femoral artery (unilateral or bilateral) on the first day, the days for palpable pressure of femoral artery, and pulmonary edema or not on the first day, were discussed between each therapy group. Fifteen cats were identified as having had a prescription filled for anticoagulant therapy using low molecular weight heparins (low molecular weight heparins group: n=8) or thrombolytic therapy using tissue plasminogen activator (low molecular weight heparins group+tPA group: n=7) between 2002 and 2011. The half survival time of low molecular weight heparins group and low molecular weight heparins group+tPA group were 742 and 5 days, respectively, in low molecular weight heparins group, survival time was longer significantly than that of low molecular weight heparins group+tPA group (p<0.05).
著者
廣瀬 昶
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-51, 2002 (Released:2005-06-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1

ホルスタイン種乳牛において乳量と心拍数の関係を検討した。妊娠していない泌乳期または乾乳期の健康な乳牛11頭を用いた。安静状態であると見なした乳牛の心電図から1分間あたりの心拍数を求めると共に、その日の搾乳で得た牛乳の重量を乳量として相関関係を分析した。その結果,乳牛における乳量と心拍数の間に有意な相関関係が認められた。
著者
樫田 陽子 町田 登 山本 剛 桐生 啓治
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-11, 1999 (Released:2005-11-11)
参考文献数
18

レースにおいて突然1着馬から大差で遅れて入線し,その直後の心電図(ECG)検査で発作性心房細動(AF)が認められた2例の所見について報告した。症例1ではレース終了10分後にAFが確認され,頻発性多源性心室性期外収縮(VPC)を伴っていた。本例は24時間後には正常洞調律に復帰していたが,その後の調教で状態不良のため競走馬から除籍された。症例2ではAF発症時にVPCは認められず,洞調律復帰後の成績は良好であった。運動直後に発作性AFが起こりVPCが併発した場合,予後は不良となる可能性が示唆された。
著者
小宮 みぎわ 岡本 芳晴
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.35-41, 2022 (Released:2022-08-18)
参考文献数
18

家庭用塩素系洗浄剤(主成分は次亜塩素酸ナトリウム)の暴露により,呼吸器障害ならびに一過性心筋傷害が引き起こされたと考えられる猫の,詳細な臨床経過を観察することが出来たので,報告する。本症例は,第3病日に呼吸促迫を呈し,胸部X線検査では明らかな心拡大が認められた。胸腔内にわずかな胸水貯留,腹側にびまん性肺胞パターン,左右肺動脈の重度拡大が認められた。心エコー検査では右心系の拡張,心室中隔の扁平化,肺動脈の拡大,三尖弁と僧帽弁の逆流を確認した。第6病日には胸水貯留量の増加が認められたため,抜去した。血清心筋トロポニンIは8.441 ng/mlと著しく高値を示した。本症例はその後,治療に反応して次第に状態は改善し,第32病日に心拡大,三尖弁/僧帽弁の逆流が認められなくなった。3年が経過したが,本症例の血清心筋トロポニンは0.050 ng/mlであり,心エコー検査においても心筋症を疑う所見はない。
著者
原田 拓真
出版者
獣医循環器研究会
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.61-66, 2018 (Released:2019-06-10)

薬物誘発性のTorsades de Pointes(TdP)は致死性の多形性心室頻拍であり,1990年代から2000年代に多数報告がなされ,医薬品市場から撤退あるいは開発のハードルとなってきた。この状況に対応すべく,各国の医薬品規制当局と製薬業界で構成される医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use; ICH)では,QT間隔の延長をTdPの代替マーカーとして評価するための手法をガイドライン化し,非臨床試験評価法として浸透してきた。その後,一つのチャネル評価のみではイオンチャネルの総和としての催不整脈作用を評価しきれておらず,また,QT間隔の延長評価では催不整脈作用が直接評価されていないために,有望な医薬品候補化合物がドロップアウトするという弊害も明らかになってきた。そこで,近年,in vivo試験およびin silico(コンピュータを用いた予測)などを用いた新たな評価系が模索されつつある。本稿では,現在の薬物誘発性不整脈評価方法を紹介するとともに,今後の展望を紹介する。
著者
桑原 正貴 矢田 英昭 矢来 幸弘 秋田 恵 戸田 典子 菅野 茂 西端 良治 三上 博輝 局 博一
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-5, 2000 (Released:2005-10-11)
参考文献数
11

心血管系機能に及ぼす気道過敏性の影響に関しては未だ不明な点が多い。本研究では,先天的に気道感受性の異なる気道過敏系(BHS)および気道非過敏系(BHR)モルモットの心拍数と血圧を無麻酔下においてオシロメトリック法で測定することにより,その一端を明らかにすることを目的とした。BHS系では,心拍数:253.5±5.1 bpm,収縮期血圧:105.7±1.6 mmHg,平均血圧:75.1±1.9 mmHg,拡張期血圧:60.0±2.2 mmHgだった。一方,BHR系では心拍数:253.7±4.2 bpm,収縮期血圧:106.8±1.3 mmHg,平均血圧:72.7±1.6 mmHg,拡張期血圧:55.8±1.9 mmHgであり,何れのパラメータにも両系統に有意な差は認められなかった。これらの結果から,気道の過敏性は安静状態における心血管系機能には顕著な影響を及ぼさないことが示唆された。
著者
樫田 陽子 町田 登 山本 剛 桐生 啓治
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-11, 1999

レースにおいて突然1着馬から大差で遅れて入線し,その直後の心電図(ECG)検査で発作性心房細動(AF)が認められた2例の所見について報告した。症例1ではレース終了10分後にAFが確認され,頻発性多源性心室性期外収縮(VPC)を伴っていた。本例は24時間後には正常洞調律に復帰していたが,その後の調教で状態不良のため競走馬から除籍された。症例2ではAF発症時にVPCは認められず,洞調律復帰後の成績は良好であった。運動直後に発作性AFが起こりVPCが併発した場合,予後は不良となる可能性が示唆された。
著者
菅沼 常徳
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.17, no.17, pp.41-52, 1984 (Released:2009-09-17)
参考文献数
29
著者
堀 泰智
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-9, 2011 (Released:2011-09-08)
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)やB-タイプナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの心臓バイオマーカーに関する基礎的および臨床的研究成果が蓄積され,心臓バイオマーカーを応用した診療が広く普及しつつある。本総説では,基礎的および臨床的研究データを交えながら心臓バイオマーカーの生理的分泌および代謝機構,測定値の臨床的解釈,測定時の注意点などについて解説したい。ヒトをはじめイヌおよびネコの慢性心疾患患者では,血中ANPやBNP, NT-proBNP濃度が重症度に関連して上昇している。これら心臓バイオマーカーは慢性心不全犬の診断や予後予測に有用であると考えられるが,ANPとBNPの臨床的意義は異なっている。ANPは主に心房筋の伸展刺激によって即座に血中へ分泌され,BNPは主に心室筋の伸展刺激によって血中に放出される。また,ANPは心房が伸展刺激を受けた直後から血中濃度に反映されるが,BNPは心室筋が伸展刺激を受けた後から血中濃度に反映されるまでにタイムラグが存在する。これらのことから筆者は,ANPは急性および慢性のうっ血マーカーとして,NT-proBNPは心室筋の負荷や障害のマーカーとして使い分けている。しかし,心臓バイオマーカーの測定値のみで病態を判断することは危険であり,一般身体検査や胸部X線検査,心エコー図検査などと組み合わせた評価が必要である。
著者
関 慶久 樫田 陽子 町田 登 桐生 啓治
出版者
Japanese Society of Veterinary Cardiology
雑誌
動物の循環器 = Advances in animal cardiology (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.74-77, 1998-12-01

うっ血性心不全の症状を呈して死亡したアミメキリン(Giraffa camelopardalis reticulata)の心臓を病理学的に検索した。心臓は拡大して丸みを帯び,両心室腔は著しく拡張していた。左心室内には前乳頭筋と後乳頭筋の位置に2個の硬い灰白色腫瘤病変(それぞれ6×4cm,8×3cm)が認められた。腫瘤は乳頭筋の頂上部.腱索ならびに僧帽弁弁尖の一部を巻き込んでいた。また,左心房の心内膜面には噴流病変が形成されていた。病理組織学的に,これらの腫瘤病変は腱索に主座した心内膜炎の瘢痕化病巣(線維性心内膜炎)とみなされた。
著者
Hiroki YOSHIMATSU Hirotaka MATSUMOTO Masanari MINAMOTO Ryohei SUZUKI Yohei MOCHIZUKI Takahiro TESHIMA Hidekazu KOYAMA
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-16, 2016-06-15 (Released:2016-07-07)
参考文献数
12

Fatty acids are a major source of energy in the normal myocardium and are taken up passively from the bloodstream. However, with heart failure, the use of fatty acids decreases in the myocardium. Therefore, serum fatty acid concentrations in dogs with mitral insufficiency (MI) might differ from those in normal dogs. The present study was designed to determine the serum fatty acid compositions in dogs with different severities of MI according to the classification proposed by the International Small Animal Cardiac Heart Council (ISACHC) and to elucidate the relationships between the determined compositions and echocardiographic parameters. In total, 30 dogs with MI were divided into 3 groups (I, II, and III) according to the ISACHC classification of MI severity. The healthy group consisted of 12 dogs matched with the MI groups for age and body weight. The serum concentrations of 13 fatty acids were measured by gas chromatography. The levels of linoleic acid (LA), docosatetraenoic acid (DTA), and arachidonic acid (AA) in group I were significantly lower than those in the healthy group (p<0.05). The levels of eicosapentaenoic acid (EPA) and AA in group II were significantly lower than those in the healthy group (p<0.05). The level of EPA in group III was significantly lower than that in the healthy group (p<0.05). In addition, the ratio of EPA to AA levels (EPA/AA ratio) in group III was significantly lower than that in the healthy group (p<0.05). With regard to the relationships between fatty acid concentrations in all MI groups (I through III) and echocardiographic parameters, the levels of AA and DTA showed a significant positive correlation with the ratio of left ventricular end-diastolic internal diameter to aortic diameter (LVIDd/Ao ratio) (AA, r=0.396 and p=0.048; DTA, r=0.426 and p=0.027). In addition, the docosapentaenoic acid (DPA) level correlated negatively with fractional shortening (r=-0.437 and p=0.023). Furthermore, the EPA/AA ratio correlated negatively with the ratio of left atrial to aortic diameters (r=-0.383 and p=0.048). The fatty acid concentrations and ratios in the dogs with 3 types of MI according to the ISACHC classification differed from those in healthy dogs. Some of these concentrations and ratios correlated with echocardiographic parameters.
著者
Tsuyoshi TOKURIKI Yuichi MIYAGAWA Naoyuki TAKEMURA
出版者
日本獣医循環器学会
雑誌
動物の循環器 (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.21-28, 2015 (Released:2015-09-04)
参考文献数
11

A 15-year-old castrated male Shih Tzu (weight 8.5 kg) with myxomatous mitral valve disease ingested 8.24 mg/kg of pimobendan (approximately 33 times the recommended dose). On presentation, tachycardia and systemic hypertension were observed. Echocardiography revealed systolic anterior motion of the mitral valve (SAM) and increased fractional shortening. Electrocardiography revealed an increased T wave to R wave amplitude ratio (T/R). SAM disappeared 12 hr after hospitalization. T/R normalized after 24 hr, although the mechanism of the increase in this ratio and its clinical significance remain unclear. Systemic hypertension disappeared 36 hr after hospitalization. These findings suggest that it is necessary to monitor T/R, SAM, and systemic hypertension in dogs who have ingested a large amount of pimobendan.
著者
中尾 周 清水 美希 松本 英樹 千村 収一 小林 正行 町田 登
出版者
獣医循環器研究会
雑誌
動物の循環器 = Advances in animal cardiology (ISSN:09106537)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-10, 2007-06-01
被引用文献数
1

犬における心房細動(AF)の発生にかかる形態学的基盤について明らかにする目的で,生前にAFを示した犬5例の心臓について,心房筋および洞結節を中心に組織学的検索を実施した。症例1は雑種,10歳,僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症例であり,AFは死亡前の4カ月間持続した。症例2はマルチーズ,14歳,僧帽弁および三尖弁閉鎖不全症例であり,AFは死亡前の10日間認められた。 症例3はゴールデン・レトリーバー,雌,2歳,右室二腔症および三尖弁異形成を有しており,AFは死亡時まで6カ月間持続した。症例4はゴールデン・レトリーバー,5歳,孤立性AFであり,交通事故により死亡するまで4週間持続した。症例5はゴールデン・レトリーバー,10歳,孤立性AFであり,心不全により死亡するまで36カ月間持続した。肉眼的に,症例1および2では左心房の重度拡張ならびに右心房の中等度拡張,症例3では右心房の重度拡張がみられたが,症例4および5の心房に著変は認められなかった。心房の組織学的変化は,顕著な変化が認められなかった症例4を除く4例に見いだされた。心房病変はいずれの例においても間質性心筋線維化に総括されるものであり,種々の程度に心筋線維の伸長・萎縮・脱落を伴っていた。間質性線維化の程度(ごく軽微±~重度+++)は,症例1:左心房(+++)/右心房(++),症例2:左心房(+++)/右心房(++),症例3:左心房(±)/右心房(+++),症例5:左心房(+)/右心房(+)であった。なお,全例において洞結節に著変は認められなかった。以上の検索結果から,小型~中型犬では心房の拡張がAFの発生要因になるが,心房が一定以上の容積を有している大型犬の場合は心房に器質的変化がなくてもAFは発生しうること;AF症例の心房にみられる間質性心筋線維化はAFの結果として生ずるものではないこと;AFの発生に洞結節の器質的変化は必須要件ではないことなどが示された。