著者
小山 暢之 山本 英晴
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.127-137, 2016 (Released:2016-05-31)
参考文献数
21

医薬品開発の国際化が進み, 日本を含む国際共同治験が年々増加している. 医薬品の有効性や安全性には民族的要因が影響する可能性があることから, 厚生労働省は「国際共同治験に関する基本的考え方」のなかで, 国際共同治験を実施する場合は, それぞれの地域において民族的要因が治験薬の有効性, 安全性に及ぼす影響について評価するよう求めている. しかし, どのような民族的要因が治験薬の有効性, 安全性に影響を及ぼすかは, 薬剤や対象疾患のみならず国際共同治験の実施地域や試験デザインなど様々な条件に依存するため, それらを特定することは必ずしも容易ではない. 本研究で一部の疾患に対して過去に国際共同治験のデータを利用して国内で承認を取得した医薬品の審査報告書を調査したところ, 国際共同治験で結果に地域間差が生じたケースは, 疾患の予後因子やリスク因子である民族的要因の分布が地域間で異なることが原因となっており, 特定の地域に限って影響を及ぼすような民族的要因が指摘されたことはなかった. この結果は, Komiyama らが提唱する3-layer approachが国際共同治験のデータの評価に適用可能であり, 特定の地域における有効性や安全性の推定には, 部分集団解析だけでなく, 適切な民族的要因を含めた統計モデルが利用できることを意味する. 今後も国際共同治験から得られる民族的要因に関する情報を蓄積して, それぞれの疾患で医薬品の有効性や安全性に影響する可能性のある民族的要因を特定していくことが重要である.