著者
杉浦 真理子 有賀 淳
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.83-94, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
27

近年, 遺伝子検査技術の革新的進歩により簡便で安価に遺伝子検査を受けられる時代への変遷が急速に進んでいる. 医療機関での遺伝子検査以外にも, 個人が医療機関を介さずに直接自分の遺伝子検査を実施できるDTCGT (Direct to Consumer Genetic Testing) が企業により提供されており, 自身の体質や能力, 将来起こしうる疾患を予測するサービスが普及している. 現在, 多くのDTCGTは専門の医師や遺伝カウンセラーなどの介入なく行われており, 医療面や倫理面で課題を抱えているが, いまだDTCGTを適切に規制する整備がなされていない. 筆者らは, 日米欧 (英, 独, 仏) における遺伝子検査に関する規制を比較し, DTCGTにかかる規制を検討した結果, 欧米のほとんどの国において, DTCGTは法的に規制されており, 実質禁止されていたが, 日本ではDTCGTにかかる規制はなく, 指針が示されているのみであった. さらに, 日本におけるDTCGTの現状と課題を検討するために, 個人での検査の窓口となるウェブサイト上でのDTCGT事業を調査し解析した結果, DTCGTを実施している112事業所の多くが医師の介入なしで検査および結果説明が行われており, 検査項目のなかには疾患診断に直結する検査結果や遺伝カウンセリングが必要となる結果が含まれていることがわかった. 今後, 日本でのDTCGTの急速な拡大によって生じる医療面, 倫理面での問題に速やかに対応するために, DTCGTの適切な規制および十分な実施体制の構築が急務と考えられる.
著者
太田 若菜 櫻田 大也 小林 江梨子 平舩 寛彦 千葉 健史 富田 隆 工藤 賢三 佐藤 信範
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.95-102, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
14

後発医薬品への 「変更不可処方箋」 について調査を行った. 2017年1~3月の任意の1週間における, 岩手県薬剤師会に所属する233店舗の薬局で受け付けた処方箋75,513枚のうち, 変更不可処方箋は7,926枚 (10.50%) であった. 変更不可の指示件数は合計17,536件であり, 当該医薬品は1,714品目であった. そのうち後発医薬品のある先発医薬品が52.70%, 後発医薬品の銘柄指定が14.86%であった. 薬効分類別にみると, 循環器官用薬, 中枢神経系用薬, 消化器官用薬が上位を占めた. 変更不可の理由としては, “患者の希望” が最も多く, “医師の意向”, “薬剤変更により疾病コントロール不良・副作用の発現” などが続いた. 後発医薬品のさらなる使用推進には, 変更不可処方箋を減少させていくことが必要である. そのためには, 後発医薬品の品質向上や適切な情報提供だけでなく, 処方箋発行システムや診療報酬の面においても対策が必要である. 今後, 複数の地域で一定期間の処方箋抽出調査などを行い, 変更不可処方箋が後発医薬品の使用推進に与える影響についてさらに検討していく必要があると考えられる.
著者
前川 雄亮 里見 佳典 小林 博幸
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.315-322, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
24

今日においては多くの医療機器がデジタル技術に支えられて開発されている.このような機器の中でも本稿では,特にSoftware as a Medical Device(SaMD)およびDigital Therapeutics(DTx)について述べる.まず,DTxについて簡単に歴史を振り返り,海外において開発された特筆すべきDTx製品の例を紹介する.次に,日本のDTxの開発状況へ話題を移し,特に海外に対する日本の開発状況の遅延について議論する.日本におけるSaMD/DTxの開発は①保険償還制度における収益予測の不確実性,②事例の蓄積不足による規制情報の限定,③臨床試験計画や承認後のソフトウェア修正戦略の困難さ,④ソフトウェア物流・認証システムの構築,⑤競合製品としてのSaMD以外のソフトウェアの増加といった多くの課題を抱えている.以上の議論をふまえ,日本におけるデジタルヘルスケアの発展における望ましい将来像と予想される課題をいくつかあげる.SaMD/DTxだけでなく,non-SaMDも含めたさまざまな製品が開発され,エコシステムが形成・相互に接続され,トータルヘルスケアが実現されるであろう.製品開発を充実させるためには,前述の課題を一歩一歩解決していく必要がある.それらに加えて,Personal Health Record(PHR)の保護と活用のためのルール作りが必要である.最近になって,日本のSaMD開発企業数社が,業界統一組織JaDHAを設立した.企業,規制当局,その他関係者の対話を通じて,この難問が解決されることを期待する.
著者
高松 大騎 小林 江梨子 伊藤 晃成 佐藤 信範
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.139-150, 2016 (Released:2016-05-31)
参考文献数
8

医療保険制度における薬剤服用歴管理指導料の算定は, 現在, 紙形式の手帳が従来より用いられている. 薬局を対象として, 紙形式および電子化形式のお薬手帳に含まれるデータの種類などを明らかにするため, アンケート調査を行った. また, 薬局に来局した患者を対象として, お薬手帳に対する患者の意識を明らかにするため, アンケート調査を行った. 1,000薬局のうち547薬局が回答を返送してきた. 対象としたすべての薬局が “紙媒体のお薬手帳” を利用していたが, “電子化お薬手帳” を “紙媒体のお薬手帳” とともに使用している薬局は, 回答した薬局の15.9%にすぎなかった. 307人の患者に回答を依頼し227人の患者が回答した. “電子化お薬手帳” を利用している患者は, 回答した患者の0.5%にすぎなかった. また, “電子化お薬手帳” に記載されている項目は, “紙媒体のお薬手帳” に記載されている項目に比べて少なく, ばらつきがあった. お薬手帳を利用している患者のうち, 20.9%はお薬手帳に自分自身で情報を記入することがあると答えた ( “血圧”, “体調の変化” など). お薬手帳に対する患者の意識としては, お薬手帳の情報を, “みせたい医療関係者だけにみせたい” とする患者と, “医療関係者ならだれでもみてもらってよい” とする患者に考え方が二分していた. したがって, “電子化お薬手帳” の運用にあたっては, “紙媒体のお薬手帳” の項目と同様の項目を網羅して記載すること, 患者の意識に応じて閲覧の制限ができることなどが必要と考えられた.
著者
岩崎 直哉 小林 江梨子 田口 真穂 山田 博章 佐藤 信範
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.247-257, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
10

地域連携薬局と専門医療機関連携薬局の知事認定制度は2021(令和3)年8月に開始した.そこで,薬局機能情報提供制度の情報を活用して,各薬局の機能を分析し,千葉県の各医療圏の薬局が地域連携薬局の認定基準をどの程度満たしているのかの実態を明らかにすることを目的とした.解析には千葉県内の薬局の薬局機能情報を用い,2019年は2,405件,2020年は2,430件の薬局を対象とした.解析項目は地域連携薬局の認定基準から一部を抜粋した.全項目のうち,最も達成率が低い認定基準は “地域における医療機関に勤務する薬剤師などに対して報告および連絡した実績” であり,達成していたのは,2020年で千葉県全体の2.3%(57薬局)だけであった.無菌製剤の調剤応需体制を有する薬局も少なく,自らの薬局の無菌調剤室を利用している薬局は,千葉県全体で2020年は87薬局(3.6%)しかなかった.在宅業務の実施に関連する要因を調べるために2項ロジスティック解析を行った.結果として “麻薬の調剤応需体制を有する”,“無菌製剤の調剤応需体制を有する”,“健康サポート薬局である”,“お薬手帳(電子版)に対応している” の4項目が在宅業務の実施に関連する要因であると判明した.
著者
石井 学 阪本 亘 東郷 香苗 中澤 徹 島﨑 聡立 田中 真衣 大手 辰哉 松澤 寛
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-41, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
59

医薬品開発におけるリアルワールドデータ (RWD) およびリアルワールドエビデンス (RWE) の活用は, 開発の効率化, 患者の新薬へのアクセス向上, 二次利用データの活用による医療機関側のデータ収集の負担軽減など, さまざまな立場でのメリットが期待される. 一方で, RWD/RWEの承認申請での受け入れ可能性は日米を含むいずれの国においても不明確な点が多い. そこで, 日米の規制当局におけるRWD/RWEに関する規制と基盤整備プロジェクトおよび承認申請でのRWE活用事例について調査した. 規制や基盤整備プロジェクトは, 日本では未承認薬や適応外使用に関するもの, 市販後の安全対策を目的としたものおよびレジストリデータ活用に関連する取り組みがみられた. 一方, 米国では, FDAから承認申請へのRWD/RWE活用を評価するための枠組みが示されていた. また, FDAは製薬や医療データベース分野の民間企業やアカデミアと協業して, RWD/RWEの活用の可能性や懸念点を検討するプロジェクトを実行していた. FDAへの承認申請でRWEがエビデンスとして採用・不採用となった事例からは, エビデンスとしての適切性や信頼性が問われる点が明らかになった. また, 米国ではレジストリデータ, もしくは電子健康記録 (EHR) データにもとづく事例が認められたが, 日本ではレジストリデータが主に活用されていた. わが国において承認申請へのRWD/RWE活用を促進するためには, 多様なデータソースを利用できる環境整備や, 信頼性のあり方の共通目線をもつことが重要である.
著者
赤羽 優燿 能城 裕希 櫻井 浩子 益山 光一
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.69-78, 2019 (Released:2019-05-31)
参考文献数
18

わが国において導入が検討されているリフィル制度が臨床現場で定着するためには, その前提となる一定の長期処方が実施されている必要がある. 本稿では比較的長期に処方がされていると考えられる高血圧患者において, 現在の通院頻度を調査することで, 長期処方の実態を明らかにすることを目的とした. また, リフィル制度に関する患者の期待を調査する目的で, 患者の通院負担についても調査を行い, 今後の課題について検討した. 保険薬局チェーン店において2017年5月の6日間に来局した患者のうち, 有している疾患が高血圧症のみで, コントロール良好な降圧薬を1~2剤服用する患者を対象 (n=172) に, 現在の通院頻度と患者の希望する通院頻度や血圧の自己管理についての基礎データを収集した. 調査の結果, 79.7% (n=137) が1カ月に1回通院していることがわかった. 全体の4人に1人が頻度を減らしたいと考えており, その理由として 「血圧が安定しているから」 と回答した人は半数を超えていた. また90.7% (n=156) の患者は血圧計を所持しているが, 毎日測定しているのは32.0% (n=55) であった. 服薬アドヒアランスについて年齢との比較分析を行った結果, 66歳以上では飲み忘れがない人が有意に少なかった. 本調査により安定な高血圧患者において, リフィル処方の対象となる長期処方は少ないことが明らかとなった. 患者の負担を軽減し, 適切な長期処方治療を実施するためには, 薬剤師には患者に服薬の重要性を指導し, 家庭血圧の管理とともに自己管理をサポートすることが期待される.
著者
堀口 逸子 本田 恭平 高田 拓哉 石橋 由基
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.85-92, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
30

本報告では,医療提供者とがん患者との間で行われる,医薬品の使用に伴う避妊の必要性に関するリスクコミュニケーションについて考察する.20歳代から40歳代の男女2,000人を対象に,Webサイトを利用した質問紙調査を実施した.10の用語のうち,最も認知率が高かったのは「抗がん剤」で79.8%だった.しかし,半数以下の用語で,認知率が20%以下だった.これらの結果から,医療提供者は情報提供の際に,コミュニケーションスキルを駆使する必要がある.「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス」は,患者に対して正確な情報を提供するためのツールになる.ホームページ上の表現を精査したり,用語集を用意したりすることで,医療提供者と患者双方のコミュニケーションの負担を軽減し,理解を促進することができると考えられる.
著者
米村 雅人 藤城 法子 元永 伸也
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.75-83, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
26

日本,欧州,米国における医薬品添付文書に係る規制は,各国の規制当局において管理されている.日本における医薬品添付文書に相当するものは,欧州では欧州製品概要(summary of product characteristics: SmPC),米国ではLabelingとして扱われている.この添付文書における避妊に係る情報記載内容に関して,日本,欧州および米国における内容に差異があることがわかった.海外の添付文書において,具体的な避妊期間の記載がある場合においても,国内添付文書においては「一定期間の避妊」とする具体性の乏しい記載があることもわかった.米国では,「Oncology Pharmaceuticals: Reproductive Toxicity Testing and Labeling Recommendations Guidance for Industry」が2019年5月に発出され,各医薬品に関する血中濃度半減期にもとづく具体的な避妊期間の注意喚起がされている.本邦の添付文書における避妊期間の記載においても,具体的な期間が記載される必要があると考える.
著者
兼山 達也 阪口 元伸 中島 章博 青木 事成 白ヶ澤 智生 丹羽 新平 松下 泰之 宮崎 真 吉永 卓成 木村 友美
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.225-236, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
49

リアルワールドデータ (RWD) は製薬業界にとってもはや欠かせないツールである. マーケティング目的のみでなく, アンメットニーズの探索, エンドポイントの妥当性検討や患者層の特定など臨床試験のデザインや, 試験を実施する国や地域, 施設の選定や組入れ計画などの実施可能性の検討, 医療技術評価やアウトカム研究などに幅広く利用されている. サイズも大きく企業からアクセス可能なレセプトなどの医療管理データベース (DB) が主に用いられているが, その他の電子医療記録や患者レジストリなども同様に有用である. 日本製薬工業協会 (製薬協) のタスクフォースで2015年夏にデータサイエンス (DS) 部会加盟会社を対象にアンケートを実施したところ, 回答が得られた会社のうちおよそ半数ですでに社内に日本のDBを保有しているか, ウェブツールを通じてアクセス可能であった. 実際, すでに多くの研究結果が各社から, またアカデミアとの共同研究として公表されている. 若手DS担当者が産官学で話し合うDSラウンドテーブル会議でも臨床試験デザインにRWDを応用した事例が共有された. これらの事例は必ずしも論文として公表されず, 社内の意思決定に応用されるものであるので, このような機会に事例を学べることは特に貴重である. RWDの安全性評価への応用は, 来年度からDB研究がPMSのオプションの1つとなることからあらたに注目されている. しかし従来のPMSがすべての目的にかなうものではなかったのと同様にDB研究がすべてを満たせるものでもなく, 目的に応じた研究計画が必要なことはいうまでもない. ほぼ全国民をカバーするナショナルデータベース (NDB) は有益な疫学研究ツールとなり得るが, 企業の研究者は基本的に直接利用できない. 製薬協から申出に従ってある一月のデータを表形式にまとめたものが提供される予定であり, 特定の薬剤に関する結果としてのみでなく, 他のDBの外部妥当性の担保としても貴重なデータとなることが期待されている.
著者
平田 恭洋 尾上 洋 藤岡 要彰 西尾 洋紀 孫 尚孝 益山 光一 北垣 邦彦
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.3-15, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
15

薬局薬剤師は,病院薬剤師をはじめとした医療従事者と連携することにより,切れ目のない医療を地域全体で支える地域包括ケアシステムにおいて重要な役割を担っている.入退院時における患者の服薬状況などの情報共有は,連携の重要な一つであり,医療従事者の業務負担軽減や医療の質向上につながる可能性がある.本研究は,薬局薬剤師が入院前の患者の服薬状況などの情報を提供することが,病院薬剤師の負担軽減や円滑な業務遂行につながるかを検討することを目的とした.病院薬剤師を対象として入院患者の持参薬管理の現状と薬局薬剤師からの情報提供の有用性などについて質問紙調査し,その結果をCS分析に付した.薬局薬剤師による情報提供は病院薬剤師業務に対する有用性が高いことが示唆された.しかし,薬局薬剤師が提供する文書を使用する病院薬剤師は20%にとどまり,お薬手帳に比べて信頼性が低かった.その課題解決には,患者の服薬情報を一元的・継続的に把握する「かかりつけ薬剤師・薬局」を一層推進していくことと,その情報が薬局薬剤師・病院薬剤師間でスムーズに共有される連携体制の構築が求められる.
著者
中本 朱香 三宅 真二
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.245-253, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
66

目的 : 「ブルーレター」は日本における医薬品のワーニングレターの一種である. 「ブルーレター」は厚生労働省が市販後に安全対策を取るべきと判断した際に製薬会社から発出される. この研究の目的は, 市販後に「ブルーレター」という強い注意喚起手段の対象となった副作用が, 治験段階において, 発見されていたか否かを調査することである. そして, 市販前に副作用に関して議論されていた場合, その情報が医療従事者に対してどのような形で提供されていたかを調査する. 方法 : 対象は2006~2015年の間に「ブルーレター」が発出された医薬品である. 副作用に関して審査報告書を調査し, 市場に出る前に製薬会社と厚生労働省がその副作用に関して知っていたかを評価した. そして副作用に関してそれぞれの添付文書を調査し, 医療従事者が「ブルーレター」が発出される以前からその副作用情報を得ることができたか評価した. 結果と考察 : 2006~2015年の間に11通の「ブルーレター」が発出された. 製薬会社と厚生労働省は, 11通中8通の「ブルーレター」発出の対象となった副作用を治験の段階で示唆していた. そしてそれぞれ該当する医薬品の添付文書中に副作用情報を提供していた. しかしほとんどの情報は「ブルーレター」が発出される以前はリスクを適切に表現できていない曖昧なものと判断された. 今後は添付文書を医療従事者が使用しやすいコミュニケーションツールとしてより一層改善することが求められる. 結論 : 多くの場合, 製薬企業は「ブルーレター」が発出される前から副作用情報を提供していた. しかしほとんどの情報は具体性を欠く曖昧な表現であり, 当該安全性問題に対する事前の想定などを強く促すには不十分であったと考えられる.
著者
小山 暢之 山本 英晴
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.127-137, 2016 (Released:2016-05-31)
参考文献数
21

医薬品開発の国際化が進み, 日本を含む国際共同治験が年々増加している. 医薬品の有効性や安全性には民族的要因が影響する可能性があることから, 厚生労働省は「国際共同治験に関する基本的考え方」のなかで, 国際共同治験を実施する場合は, それぞれの地域において民族的要因が治験薬の有効性, 安全性に及ぼす影響について評価するよう求めている. しかし, どのような民族的要因が治験薬の有効性, 安全性に影響を及ぼすかは, 薬剤や対象疾患のみならず国際共同治験の実施地域や試験デザインなど様々な条件に依存するため, それらを特定することは必ずしも容易ではない. 本研究で一部の疾患に対して過去に国際共同治験のデータを利用して国内で承認を取得した医薬品の審査報告書を調査したところ, 国際共同治験で結果に地域間差が生じたケースは, 疾患の予後因子やリスク因子である民族的要因の分布が地域間で異なることが原因となっており, 特定の地域に限って影響を及ぼすような民族的要因が指摘されたことはなかった. この結果は, Komiyama らが提唱する3-layer approachが国際共同治験のデータの評価に適用可能であり, 特定の地域における有効性や安全性の推定には, 部分集団解析だけでなく, 適切な民族的要因を含めた統計モデルが利用できることを意味する. 今後も国際共同治験から得られる民族的要因に関する情報を蓄積して, それぞれの疾患で医薬品の有効性や安全性に影響する可能性のある民族的要因を特定していくことが重要である.
著者
中島 理恵
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.81-89, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
14

製薬企業が行うプロモーションのなかには虚偽や誤解を招く表現を用いているものも存在する. このような状況は最終的には医薬品を使用する患者の不利益につながるため, 第3者による製薬企業の新薬プロモーション活動の監視制度の確立が求められている. 本研究では, 我が国における製薬企業の医薬品プロモーション活動の監視制度の在り方を検討するため, すでに製薬企業の医薬品プロモーションの監視活動を行っている米国FDA (Food and Drug Administration) の取り組みを例示するとともに, 米国における医薬品広告違反の実態をFDAから発行されたwarning letterとuntitled letterを参考にして分析した. FDAでは, 疾病専門領域ごとの担当審査官を設置し, 膨大で専門的なプロモーション資材を効率良くレビューしている. また, 医局や講演会といったFDAの目が届きにくい現場でのプロモーション違反対策として, 現場の医療従事者に向け, 教育と報告窓口の両方の側面をもつBad Ad Programの制度を提供している. 米国においては, 近年電子媒体での違反が増加しており, 今後はFacebookなどのソーシャルメディアからの情報の監視が重要となる.
著者
町野 朔
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.65-70, 2016 (Released:2016-02-05)
参考文献数
16

日本においては, ヒト細胞・組織の研究利用は, それ自体人間の尊厳に反するものであるという意見が根強い. だが, このような研究は人々の健康に奉仕するものであり, まさに人間の尊厳のためのものである. 他方, このような研究に直接適用される法律は現在存在していないのであり, 研究を適切に推進させて行くためには, われわれは, 死体解剖保存法, 臓器移植法などの法律を参照しながら具体的なルール作りを進めなければならない.
著者
堀井 郁夫
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.71-79, 2016 (Released:2016-02-05)
参考文献数
12

創薬早期における臨床開発候補化合物選択時に, 動物実験データからその結果のヒトへの外挿性について薬効と安全性を検索することは重要である. 一般的に, ヒト組織を利用した医薬品探索・開発研究には, 開発候補化合物のスクリーニングを目的として生体外モデル系の開発, 医薬としての標的の特定, 有効性・安全性に関わる標的の分布とその機能の検討などがなされている. 近年, この10年の医薬品治療において, 治療・改善がほぼ十分に見込まれる疾病に対して, いまだ不十分な疾病領域 (癌, 中枢神経系疾患など) があることが提示されてきている. 創薬におけるこれからの挑戦は, いまだ充足されていない疾病領域への対応であることが明白になってきた. 分子生物学の新しい進展に伴い, 遺伝子解析に関わる科学的・技術的向上がみられ, 病気・病因の理解度が高まってきた. その一環として, 以下に示すような事項の検索に基づく個別化医療への道が開かれ, 診断に基づく適確医療の方向へと進みつつある. ①病態の理解と医薬としての展開の可能性の検討. ②探索研究とその臨床応用時の両方に関わるバイオマーカーの探索・設定, 測定系開発およびそのバリデーション. ③臨床応用時の患者の層別化あるいは選択のための診断方法の開発とそのバリデーション. 最近の新薬創生の場では, その創薬戦略における新薬に対して「病気・病因に対する正しい標的か?, それに対応する正しい化合物が選択されているか?, 対応する正しい患者が選択されているか?」という疑問が投げかけられている. 医療の場でのこのような思索が, 従来型医療 (one-size-fits-all) から個別化医療 (personalized medicine) ・適確医療 (precision medicine) へと道を開けつつある.
著者
相田 直樹 印南 一路
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.193-210, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
11

わが国の薬剤費の推計は,国民医療費と社会医療診療行為別調査に依拠しており,その手法上の限界が指摘されてきた.本研究は,IQVIAソリューションズジャパン社の2012年度より2021年度までの全医療用医薬品のデータと,株式会社医薬情報研究所のデータをYJコードで結合して分析する手法を用い,わが国の薬剤費の推移を種別ごとに把握し,医薬品に関連する政策目標が達成されているか否かを定量的に評価した.第一に,先発品,長期収載品,後発医薬品ごとの市場規模の推移を記述した結果,昨今わが国が目指してきた長期収載品依存の体質からの脱却,後発医薬品の使用促進といった政策目標はおおむね達成されていた.第二に,抗ウイルス剤,抗PD-1抗体薬の再算定による適正化効果,各種再算定の適正化効果,通常薬価改定の適正化効果,新薬創出加算対象品の市場規模の推移,安定確保医薬品の市場規模の推移,通常薬価改定および各種再算定がなかった場合のシミュレーション分析などの分析の結果,全体として,薬価改定や各種再算定は薬剤費のコントロールに寄与していることが示された.これは2016年の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に沿っている.
著者
根来 宏光 西山 博之
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.55-62, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

医薬品の避妊に関するガイダンスが,AMED(日本医療研究開発機構)研究班「生殖能を有する者に対する医薬品の適正使用に関する情報提供のあり方の研究」でとりまとめられた.このガイダンスでは,生殖可能な患者への医薬品使用による胚・胎児発生に対する潜在的リスクを最小限に抑えるため,投薬治療中および最終投薬後に避妊が推奨される条件および避妊期間に係る基本的な考え方を示している.本稿では,ガイダンスの男性避妊について概説するとともに,「生殖補助医療(配偶子の凍結など)」,「放射性医薬品,再生医療等製品,ワクチン等の生殖発生毒性リスク」,「感染性を有する可能性のある医薬品における性行為に伴うパートナーへの感染リスク」の3点について補足したい.
著者
大平 隆史 上杉 幸嗣 勝良 藍子
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.93-97, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
6

「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス(案)」は,性別を問わず生殖可能な患者への医薬品投与による次世代以降に対する発生毒性および遺伝毒性の潜在的リスクを最小限に抑えるため,投与中および最終投与後に避妊が推奨される条件および避妊期間にかかわる基本的な考え方を示すことを目的として取りまとめられた.非臨床試験,臨床試験および市販後に得られる安全性情報を踏まえた避妊に関する注意喚起について,添付文書上の避妊を規定する際の設定方法および医療現場における避妊に関する安全性情報の解釈の一助となることが期待される.今回,本ガイダンス(案)の概要およびガイダンス(案)をふまえた製薬企業の今後の対応について紹介する.
著者
小野寺 博志
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.45-53, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
23

サリドマイドは大きな薬害をもたらし,この世から回収された.このサリドマイド事件により薬の安全性に対する規制やガイドラインが大きく進んだ.危険な薬は事前に予測できるようになった.しかし,サリドマイドは2008年再び承認された.難治性多発性骨髄腫の適用で適正ガイドラインにより厳しく管理することが条件である.医薬品開発での安全性はICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドラインで試験の種類や実施時期が決められている.その非臨床安全性試験の結果にもとづき臨床試験が行われ,適切な用法用量が決められる.特別な場合以外,妊婦や妊娠の可能性のある女性での治験はできない.添付文書での多くは「妊婦,妊娠可能な女性への投与経験はない」という記載である.特に遺伝毒性のある薬は「禁忌」となる.AYA世代にがん治療を受けた女性のリスクについて改訂されたICH S5(R3)から考えてみた.