著者
小山 里奈
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.205-210, 2004-05-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
15

窒素は植物にとっての必須元素の一つであり,大部分の植物は土壌中の無機態窒素を窒素源として利用している。植物が利用している土壌中の無機態窒素には,アンモニア態窒素と硝酸態窒素の二つの形態がある。植物が二つの異なる形態の窒素を吸収した場合,その後の同化過程は大きく異なる。アンモニア態窒素は直接有機態窒素へと同化されるのに対し,硝酸態窒素は酵素の働きによる還元過程を経て有機態窒素へと同化される。硝酸態窒素同化の第一段階は硝酸還元酵素による硝酸態窒素の亜硝酸態窒素への還元であり,この段階が硝酸態窒素同化全体の律速段階となっている。硝酸還元酵素は基質誘導性の酵素であり,この酵素を生成し硝酸態窒素を利用する能力は植物の種によって大きく異なる。硝酸態窒素は土壌粒子に吸着されず,系から流亡しやすいため,植物による硝酸態窒素吸収は系からの窒素流亡を防ぐ役割を果たし,系を構成する種の窒素利用に関する特性は窒素循環においても重要な意味を持つと言える。様々な量の硝酸態窒素を供給する実験:により,1)植物の硝酸還元酵素活性(NRA)は硝酸態窒素の供給量の増加に伴って上昇する,2)植物のNRAはある一定以上の硝酸態窒素の供給を受けると飽和に到達するが,NRAが飽和に至るのに必要な窒素供給量は種によって異なる,3)飽和に到達した時点のNRAの最大値も種によって異なる,ということが明らかにされた。これらの結果は,植物の窒素利用に関する種の特性を表すためには,窒素源としての硝酸態窒素に対する依存性と反応性が重要であることを示している。しかし,実験的に窒素の供給を受けた環境が,自然条件における土壌窒素養分条件と比較してどの程度であるのかを評価した研究は少ない。実験的研究と野外調査との比較を行い,窒素養分条件の変化に対する自然生態系の反応を解明するためにも,実験設定自体の定量的評価が今後の課題の一つであると言える。