著者
吉川 敏子 吉川 真司 小山田 宏一 鷺森 浩幸 田中 俊明 坂井 秀弥 藤本 悠
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年度は3年間の補助事業の2年目として、昨年度の成果を踏まえ、概ね4つの方面での成果を得た。まず1つめは、当初より予定していた朝鮮半島の牧の故地を巡見し、韓国の研究者と交流したことである。韓国における古代牧の研究自体がまだ始まったばかりであり、今後、国際的な視野を広げつつ本研究課題を継続的に行っていく上での課題を得た。2つめは、平安時代の勅旨牧設置4カ国のうち、信濃国と上野国の古代牧推定地を巡見し、昨年度巡見した甲斐国との比較検討ができたことである。上野の場合は、榛名山噴火の火山灰降下により、通常は遺らない古墳時代の地表面の人為的痕跡が調査されてきたが、現地に立ち、地形を実見しながら牧の景観復元について学べたことは、これを畿内の古代牧に置き換えて検討する際に、両地域の相違点も含めて大いに参考となるとの手応えを得た。また、信濃国望月牧では実際に土塁の痕跡を地表にとどめており、具体的に畿内牧の故地を検討する際には、地中に埋もれたものも含め、留意すべき遺構であることを注意喚起された。3つめは、昨年度に続き、個別具体的な畿内の古代牧についての検討を進められたことである。年度中に、研究代表者による河内国辛嶋牧、研究協力者である山中章による大和国広瀬牧・伊賀国薦生牧についての研究論文を発表し、本年度の研究会において報告と検討を行った摂津国鳥養牧、同垂水牧、河内国楠葉についても、近年中に成果を公表できると考えている。4つめは、本年度より、古代の馬を研究する考古学のグループとの情報交換を積極的に行える関係を築いたことである。本科研補助事業の研究は、現在のところ文献史学と地理学に比重がかかっているが、考古学を基軸とする研究会との研究協力により、古代の牧と馬の双方向から、古代社会における馬の生産と利用の具体相の解明を加速させられると考える。