著者
氏野 智也 小島 梨沙 山田 俊幸 田中 将史 中山 尋量
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

目的:血清アミロイドA(SAA)は肝臓で合成される全長104残基からなるタンパク質である。生体内でアミロイド線維を形成し、アミロイドーシスの原因となることが知られている。マウスでは、SAA分子のカルバモイル化が、細胞培養系においてアミロイド線維形成を促進すると報告されている。本研究では、ヒトSAAのカルバモイル化が構造特性やアミロイド線維形成に及ぼす影響を検討する。方法:構造特性に及ぼす影響を調べるため、二次構造及びその熱安定性を円二色性分散計により評価した。また、リポソームと混合することによって、脂質結合に伴う二次構造の変化を調べた。アミロイド線維形成に及ぼす影響を調べるため、チオフラビンTを用いた蛍光測定を行うとともに凝集体の形態を電子顕微鏡により観察した。さらに、SAA分子で最もアミロイド線維形成に関与すると考えられているN末端領域に相当するSAA(1-27)ペプチドを用いて、N末端アミノ基のカルバモイル化の影響を調べた。結果:低温では安定性に違いが認められたものの、生理的温度では脂質への結合の有無に関わらず二次構造にほとんど変化が認められなかった。蛍光測定ではどちらもチオフラビンTの蛍光を示しているにも関わらず、二次構造や凝集体の形態に違いが認められた。SAA(1-27)ペプチドのN末端アミノ基のみのカルバモイル化でも、全長タンパク質と同様の傾向を示したことから、N末端アミノ基のカルバモイル化がアミロイド線維の形成過程や形成される線維の構造や形態に違いをもたらすことが示唆された。考察:SAA分子、とりわけN末端アミノ基のカルバモイル化は生体内での構造には影響しないが、SAA由来のアミロイドーシスの発症に影響する可能性があることが示唆された。今後は、酸化など生体内で起こりうる他の化学修飾がSAAの構造や機能に及ぼす影響をさらに検討する。