著者
河野 恵三 宮田 聡美 新井 成之 有安 利夫 三皷 仁志 牛尾 慎平
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】我々は昨年の本学会で、第3類医薬品「錠剤ルミン®A」の主要な有効成分NK-4が、マクロファージ(Mφ)様に分化させたTHP-1細胞に対して、M1 Mφマーカーの発現増強、TNF-α/IL-10産生比の増加やビーズの取り込み亢進など、貪食能の強いM1様Mφへ分極させることを報告した。今回、錠剤ルミン®Aの一般創傷に対する作用機序を明らかにするため、アポトーシス細胞の貪食(Efferocytosis)による炎症性M1様Mφから創傷治癒能の高い抗炎症性M2様Mφへの移行に及ぼすNK-4の効果について検討した。【方法と結果】①NK-4 (1-5 μM)によりM1様Mφへと分極したTHP-1細胞を、過酸化水素処理によりアポトーシスを誘導したJURKAT E6.1細胞(Apo-J)と、1 : 0.25~2の割合で混合し37℃で1時間共培養後にLPS (1 μg/ml)で刺激し、サイトカイン産生を調べた。その結果、NK-4濃度依存的且つApo-J細胞数依存的なTNF-α産生抑制と、対照では見られないIL-10産生の有意な増加が認められた。一方、TGF-β産生に影響は認められなかった。TNF-α/IL-10産生比でみると、細胞比1:1の場合、LPS単独刺激に対して対照では28.8 ± 9.7% (n=3)低下したのに対して、NK-4 (5 μM)処理では83.7 ± 8.7% (n=3)の低下が見られ、NK-4処理細胞で抗炎症性M2様Mφへの移行が促進していた。またNK-4処理細胞で対照よりも強いApo-Jの貪食が見られた。②Efferocytosisに重要なPhosphatidylserine とMφ上の受容体との結合をAnnexin Vで阻害すると、TNF-α産生抑制は完全に回復したが、IL-10産生増強には影響が見られなかった。③Cytochalasin DでApo-Jの貪食を阻害すると、IL-10産生増強作用のみが見られなくなったことから、IL-10産生増強作用はApo-Jを貪食することが重要であると考えられた。④Efferocytosisで活性化されるPI3K/Akt経路の関与を調べた結果、Western BlottingではNK-4処理細胞とApo-Jとの共培養によりAktの強いリン酸化が認められた。またWortmannin 処理ではNK-4処理細胞におけるTNF-α産生抑制は部分的に回復し、IL-10産生増強は完全に低下した。【考察】NK-4は創傷時にMφを貪食能の強いM1様Mφへと分極を促進すると共に、炎症の収束へ向けてEfferocytosisを高めて、炎症性M1様から抗炎症性M2様Mφへの移行を促進することで治癒を高めることが考えられた。またその作用機序としてPI3K/Akt経路の活性化の関与が示唆された。
著者
竹田 沙記 中﨑 千尋 伊藤 健人 能都 和貴 本屋敷 敏雄
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】茶に含まれるカテキン類は、様々な生理作用が知られている。特に生理活性が高く、含有の多いものとしてエピガロカテキンガレートがあるが、体内への吸収率は低いと考えられている。また、茶に含まれる成分にカフェインがあるが、カフェインはカテキン類と容易に複合体を形成することが分かっており、またカフェインは同時摂取した成分の体内滞留時間、濃度に変化を与えることも知られている。カフェインがカテキン類の吸収率を増加させるのであれば、茶の生理活性を検討するためには複合体形成による体内動態への影響を調べることが必須と考える。カテキンとカフェイン複合体を投与し、体内動態について検討を行うこととした。【方法】カテキン類とカフェインがモル比1:1となるように複合体を調製後、8週齢のWistar/ST系雄性ラットを無作為に群に分け、複合体を経口投与した。投与後15、30、60、90分と経時的に血漿を採取した。体内のカフェイン量の濃度変化についてLC/MSを用いて測定した。【結果・考察】複合体投与によりカテキン類の種類による、カフェイン濃度の体内濃度に対する影響が示唆された。
著者
山川 紘希 鈴木 渉太 建山 和代 諏訪 由利香 垂井 由季
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

目的:近年、日本に住む在留外国人や日本を訪れる訪日外国人が増加傾向にある。さくら薬局京都駅前店(当薬局)には、立地的に多数の訪日外国人が訪れているが、外国語対応の可能なスタッフは常駐していない。そのため、薬剤師と外国人患者間で問題が生じている。外国人患者が安心して薬を使用できるように、昨年に引き続き、より円滑なコミュニケーションを行うための方法を検討し、評価を得た。方法:2019/5/1-9/30までの期間、研究者:鈴木渉太氏が考案したOMOTENASHI (英語、中国語、韓国語、スペイン語、日本語+イラストを併記したツール) アプリ版を導入したタブレット端末を、受付及び投薬窓口において使用した。担当した店舗スタッフに、アプリ使用の有無での患者対応の違いについてアンケート調査を実施した。結果:OMOTENASHIアプリを導入したタブレットの使用により、視覚的に外国人患者に説明内容を伝えることが可能となった。また、対応可能な言語を5ヵ国語に拡張したことで、以前よりも様々な言語の患者に対応することができた。そして、紙媒体からアプリに改良したことで、印刷物の管理に関する手間を軽減することができた。しかし、複数の医薬品が処方された場合には該当する資料を探すのに時間を要し、店舗スタッフへアプリの操作方法を説明するのに時間を要したことから、まだ改善の余地は残されている。考察:薬局において日本語に不慣れな外国人患者へ服薬指導することは、健康被害のリスクを上昇させる危険性が伴う。OMOTENASHIアプリを使用することで、紙で説明を行っていた時よりもより円滑な対応が可能となった。また、使用した店舗スタッフの不安を訴える意見が軽減していたことから、業務負担軽減に繋がる可能性が示唆された。今後は、コミュニケーション力をより向上させる説明ツールの作成が課題である。
著者
加瀬 七夏美 中村 友紀 植木 毅 桑原 直子 松尾 侑希子 三巻 祥浩 立川 英一 山田 陽城
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】コルチゾールは、血糖上昇、蛋白質異化促進、脂質分解促進、抗炎症や免疫抑制作用を有する生命維持に必須のホルモンである。生体がストレスに晒されると視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系が活性化され、コルチゾールが大量に産生されてストレスに拮抗する。一方で過度なストレスによってHPA系機能が亢進され続けるとネガティブフィードバック機構が破綻し、過剰に分泌されたコルチゾールが精神疾患や代謝性疾患、悪性腫瘍、記憶障害などを引き起こす。近年、難治性うつ病患者ではHPA系機能障害が起こり、コルチゾール濃度の顕著な増加が持続されていることが知られている。演者らは漢方薬の香蘇散に見出された抗うつ様作用に、HPA系機能の改善作用が関わっていることを既に報告した。また先に、新たなHPA系機能改善物質を探索するため、35種類の漢方薬について副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)刺激によるコルチゾール産生に対する影響をスクリーニングし、生薬ダイオウが活性に関与することを見出した。今回、引き続きコルチゾール産生抑制活性を指標にダイオウの成分探索を行ったところ、活性成分を単離・同定したので報告する。【方法・結果】ダイオウ(日局、5.0 kg)の水抽出エキス(575 g)をDiaion HP-20カラムクロマトグラフィーに付し、順次極性を下げながら溶出させ5個の粗画分に分画した。このうち最も強い活性が認められたエタノール溶出画分について、各種クロマトグラフィーを用いて分離・精製を行い、6種のアントラキノン類を単離した。単離された化合物のACTH刺激によるウシ副腎皮質細胞のコルチゾール産生抑制活性を評価した結果、2種の化合物が強い活性を示した。
著者
後藤 千寿 梅田 道 大澤 友裕 甲田 明英 池上 遼 勝野 隼人 大野 佑城 安田 昌宏 水井 貴詞
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】ボノプラザンは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカーとも呼ばれる、新たな作用機序を有する新しいカテゴリーのプロトンポンプ阻害薬(PPI)である。既存のPPIは、低マグネシウム血症を引き起こすことが報告されているが、ボノプラザンについては報告されていない。今回、ボノプラザンの投与が、既存のPPIと同様に低マグネシウム血症を引き起こすリスク因子であるかについて検討を行ったので報告する。【方法】2016年11月~2018年10月に、岐阜市民病院において血清マグネシウム(S-Mg)の測定がされた患者を対象に、遡及的に調査を行った。調査期間内におけるS-Mgの最低値が施設基準下限値(1.8mg/dL)未満を「未満群」、以上を「以上群」とし、2群間の差の検定にはFisher’s exact testを使用した。さらに、単変量解析においてp<0.2であった因子を独立変数とし、多重ロジスティック回帰分析を行った。なお、いずれもp<0.05の場合を有意差ありと判定した。【結果】対象患者は384名(男性:207名、女性177名)、平均年齢(±SD)は69.4(±17.0)歳であった。多変量解析の結果、「ボノプラザン投与」(オッズ比(OR):2.26、95%信頼区間(CI):1.17 – 4.37、p=0.02)および「マグネシウム製剤投与」(OR:0.42、CI:0.18 – 0.97、p=0.04)において有意差が見られた。【考察】既存のPPIと同様に、ボノプラザンの投与がS-Mg値低下のリスク因子である可能性が示唆された。そのため、新規PPIであるボノプラザンを投与されている患者においても、S-Mg値の低下に注意する必要があると考えられた。
著者
渡辺 正樹 林 京子 田谷 有紀 林 利光 河原 敏男
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

要旨 目的:単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、皮膚や口唇、眼などに感染症を反復的に起こす病原体であり、初感染後に神経節に潜伏感染して終生存続し、免疫機能低下時に回帰発症を起こす。アシクロビル(ACV)等の治療薬が開発されているが、長期連用による副作用や耐性ウイルスの出現は回避できない。我々はこれまでに、納豆・納豆菌がインフルエンザなどのウイルス感染症に対して治療・予防効果を発揮することを報告してきた。今回、HSV-1感染によって生じる皮膚ヘルペスに対するこれらの有効性を評価した。 方法:BALB/cマウス(n=10)の側腹部にHSV-1を皮下注射した。滅菌水、ACV、納豆、TTCC903納豆菌(生菌・死菌)または煮豆を、ウイルス接種7日前から14日後まで、1日2回経口投与した。出現したヘルペス症状を6段階の発症スコアで評価した。感染14日後に採血して、血清の中和抗体価をプラークアッセイによって測定した。 結果:ウイルス接種の4日後から接種部位近傍にヘルペス症状が帯状に出現した。対照(滅菌水投与)群では、全例発症し、死亡率は40%であった。納豆・納豆菌投与群では発症率及び死亡率が、対照群に比べて抑制された。煮豆投与群でも、ヘルペス症状の進展を抑制する効果がみられた。感染2週間後のウイルス特異的抗体量は、納豆及び納豆菌投与時に増加した。納豆菌の生菌と死菌との間にはヘルペス治療効果に差異がみられなかった。 考察:納豆と納豆菌には、HSV-1による皮膚ヘルペス抑制効果が認められた。抗体上昇を伴っていたことから、免疫機能刺激作用が少なくとも部分的に治療効果に寄与していたと推察される。煮豆投与時にも一定の効果がみられたため、その作用発現の背景を現在検討中である。
著者
前原 都有子 藤森 功
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景】肺炎の日本人の死因の第5位であり、肺組織への好中球浸潤や肺浮腫を伴う肺機能の低下を特徴とする。中でも、誤嚥や敗血症を起因とする急性肺障害は、40%の死亡率を示すが、有効な治療法はない。肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中でプロスタグランジンF2α(PGF2α)の産生量が増加することが報告されているが、その機能は分かっていない。本研究では、急性肺障害におけるPGF2αの機能解析を目的とした。【方法】野生型マウスに塩酸(2 µl/g)を気管内に投与することで肺炎モデルを作製した。PGF2αの阻害剤であるAL8810は塩酸投与の1時間前に腹腔内に投与した。塩酸投与6時間後に、肺機能および炎症の評価を行った。【結果・考察】生食投与群に比べ塩酸投与群では、肺機能の低下を伴い、気管支肺胞洗浄液中への好中球の浸潤および浮腫形成が促進した。また、TNF-αやIL-1β、IL-6の遺伝子発現量が顕著に増加した。AL8810の前処置は、肺機能の低下および好中球の浸潤をさらに促進させたが、炎症性サイトカインの遺伝子発現量には影響を与えなかった。免疫組織化学染色によりPGF2αの受容体が気管支上皮細胞および肺胞マクロファージに発現していることが明らかになった。さらに、肺の伸展能を制御するサーファクタントプロテインBの遺伝子発現量がAL8810投与により顕著に低下した。これらの結果から、PGF2α受容体の阻害は、肺の伸展能を制御するサーファクタントの産生を減少させ、血管透過性を促進させることで、肺機能の低下および肺浮腫を促進させ、急性肺炎を悪化させることが示唆された。
著者
棚谷 綾介 田浦 太志
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】カンナビノイドはolivetolic acid(OLA)とモノテルペンから構成される二次代謝産物であり、近年、欧米各国で医薬品応用されるなど高い注目を集めている。本研究ではカンナビノイドの生合成に関与するプレニル転移酵素(CsPT4)1)の基質特異性を検討した。【方法】Pichia pastorisのCsPT4発現株よりミクロソーム画分を調製し、これを粗酵素として各種芳香族基質およびプレニル基質を組合せたアッセイを行った。【結果および考察】CsPT4はOLAのゲラニル化を触媒し、cannabigerolic acid(CBGA)を生成する酵素であるが、前回我々は本酵素がFPPおよびGGPPに対しても活性を示し、プレニル鎖長の異なるCBGAアナログを合成することを報告した2)。今回芳香族基質に対する基質特異性を再検討した結果、CsPT4はOLA以外に、アルキル鎖長の異なるdivarinic acidおよび6-heptylresorcylic acid、フロログルシノール誘導体のphlorocaprophenone、さらにdihydropinosylvin acidを受容し、ゲラニル基の転移を触媒することを確認した。このうちdihydropinosylvin acid からはビベンジルカンナビノイド3)前駆体の3-geranyl dihydropinosylvin acidの生成を確認した。以上からCsPT4は多様なカンナビノイド関連化合物の酵素合成に応用可能と考えられる。1) Luo et al., Nature 567, 123 (2019)2) 棚谷ら、日本生薬学会第66回年会講演要旨集p863) Chicca et al., Sci Adv 4, eaat2166 (2018)
著者
菊池 蘭 伊藤 創馬 太田 美鈴 日高 慎二 瀧沢 裕輔 栗田 拓朗 中島 孝則
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】ベルソムラ錠の有効成分であるスボレキサントは、覚醒物質オレキシン受容体を可逆的に阻害する新しい作用機序の睡眠薬である。従来の睡眠薬に耐性ができた患者など広く使用されているが、服用直前にPTPシートから取り出すこととされており、一包化調剤は避けられてきた。そこで、ベルソムラ錠分包品の保存安定性について検討を行った。【方法】ベルソムラ錠をセロポリ製分包紙に分包し、シリカゲル入アルミ袋またはアルミ袋に入れ、25℃60%RHまたは40℃75%RHの条件下で保存した。また冷蔵庫での保存も試みた。4週間後、錠剤の質量、直径と厚みを測定すると共に溶出試験を行った。また各条件下で保存後のスボレキサント含量についてHPLCにて定量を行った。【結果】25℃60%RHならびに40℃75%RHの条件下において、分包後4週間でシリカゲル入アルミ袋に保存したものは錠剤の質量、直径と厚みが減少し、溶出速度の低下が認められた。これに対しアルミ袋中で4週間保存したものでは、やや質量の増加が認められたものの、溶出速度の変化は認められなかった。冷蔵庫内での保存においては、分包したまま保存したもの、アルミ袋中で保存したもの共に質量や溶出速度の変化は認められなかった。加えて、全ての保存条件においてスボレキサント含量の変化は認められなかった。【考察】ベルソムラ錠分包品はアルミ袋中に保存するか、冷蔵庫内で保存することにより安定であり、長期保存が可能であると考えられる。
著者
仁木 一順 澤田 珠稀 多田 耕三 西田 明代 土肥 甲二 光在 隆 奥田 八重子 森川 幸次 前 武彦 黒木 光代 高岡 由美 松岡 太郎 芦田 康宏 上田 幹子
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景・目的】超高齢化が進む現在、個々が主体的に健康の維持増進に取り組むことができる仕組みが求められる一方で、自らの健康について気軽に相談できる場の不足や、SNSなどの普及に伴う信憑性に欠ける健康情報の氾濫などの課題がある。そこで我々は、豊中市、豊中市薬剤師会と連携し、健康サポート拠点として薬局が発信する情報が地域の健康維持・増進に貢献できるのかを明らかにすることを目的とした産官学共同研究を2019年9月より実施している。今回は本研究を紹介するとともに、開始数か月間の経過を報告する。【方法】豊中市の7圏域それぞれ1件の薬局にデジタルサイネージ(DS)を設置し、市や薬剤師会からの健康情報を配信する環境を整備した。配信情報として、健診、予防接種など、薬局から関係機関へとつなぎ、疾病の重症化予防に貢献しうると考えられるものを中心に12カテゴリーを準備した。また、各薬局でタブレットを用い、配信した情報の有用性に関する5件法(そう思う~そう思わない)での14問のアンケートを実施するとともに、タッチ対応DSを使用することで薬局利用者が閲覧した情報履歴を収集し、解析した。【結果・考察】アンケート回答数は延べ339件であり、タッチによるDSの情報へのアクセス数は延べ13980回であった(11月15日現在)。「この情報が役に立ったと思いますか」、「今後も健康情報が欲しいと思いますか」と問いに対し、[そう思う・どちらかというとそう思う]の回答者は、それぞれ302名(89.1%)、311名(91.7%)であった。以上のことから、DSにより薬局が発信する健康情報が薬局利用者にとって有用となる可能性が示唆された。今後は、配信した情報による利用者の行動変容や市が集計する客観的指標なども評価し、薬局を拠点とした情報発信が地域の健康増進に貢献できるのかを検証していく。
著者
氏野 智也 小島 梨沙 山田 俊幸 田中 将史 中山 尋量
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

目的:血清アミロイドA(SAA)は肝臓で合成される全長104残基からなるタンパク質である。生体内でアミロイド線維を形成し、アミロイドーシスの原因となることが知られている。マウスでは、SAA分子のカルバモイル化が、細胞培養系においてアミロイド線維形成を促進すると報告されている。本研究では、ヒトSAAのカルバモイル化が構造特性やアミロイド線維形成に及ぼす影響を検討する。方法:構造特性に及ぼす影響を調べるため、二次構造及びその熱安定性を円二色性分散計により評価した。また、リポソームと混合することによって、脂質結合に伴う二次構造の変化を調べた。アミロイド線維形成に及ぼす影響を調べるため、チオフラビンTを用いた蛍光測定を行うとともに凝集体の形態を電子顕微鏡により観察した。さらに、SAA分子で最もアミロイド線維形成に関与すると考えられているN末端領域に相当するSAA(1-27)ペプチドを用いて、N末端アミノ基のカルバモイル化の影響を調べた。結果:低温では安定性に違いが認められたものの、生理的温度では脂質への結合の有無に関わらず二次構造にほとんど変化が認められなかった。蛍光測定ではどちらもチオフラビンTの蛍光を示しているにも関わらず、二次構造や凝集体の形態に違いが認められた。SAA(1-27)ペプチドのN末端アミノ基のみのカルバモイル化でも、全長タンパク質と同様の傾向を示したことから、N末端アミノ基のカルバモイル化がアミロイド線維の形成過程や形成される線維の構造や形態に違いをもたらすことが示唆された。考察:SAA分子、とりわけN末端アミノ基のカルバモイル化は生体内での構造には影響しないが、SAA由来のアミロイドーシスの発症に影響する可能性があることが示唆された。今後は、酸化など生体内で起こりうる他の化学修飾がSAAの構造や機能に及ぼす影響をさらに検討する。
著者
朝倉 佑実 河野 洋平 佐藤 将嗣 青山 隆夫
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】慢性裂肛には、ニトログリセリン等を含むクリームを患部に塗布し、肛門静止圧を低下させる治療が行われている。しかし、副作用や高い再発率が問題であり、有用な新規薬剤が求められている。芍薬甘草湯は内服で筋弛緩作用を示すことが知られており、外用薬としての有用性が期待できると考えられる。本研究ではラットを用いた肛門内圧測定法を構築するとともに、芍薬甘草湯クリームによる内肛門括約筋の弛緩効果を評価した。【方法】芍薬甘草湯クリームは、精製水に懸濁した市販エキス細粒2.5 gに、添加剤の流動パラフィンとグリセリン、および基剤の親水軟膏を加え、全量を7.0 gとした。肛門内圧測定用のプローブは、カテーテル(6 Fr)の先端にポリエチレン製のバルーンを装着して作成した。プローブにかかる圧力は、血圧トランスデューサと圧力用増幅器を用いて測定し、解析にはPowerLabを用いた。肛門内圧測定精度の検証では、クリープメータを用いてプローブにかけた一定の荷重と圧力測定値間の相関性を評価した。SD系雄性ラットを無作為に芍薬甘草湯群または対照群に振り分けた2剤2期のクロスオーバー試験では、吸入麻酔下でクリーム塗布前と塗布(0.1 g/kg)後3 hに肛門内圧を測定し、算出した肛門内圧変化率で効果を評価した。【結果・考察】プローブに一定の荷重(0.01–0.1 N)をかけて圧力を測定した結果、荷重と圧力の間に良好な相関が認められ(R2=0.996)、本測定法の定量性が確認された。肛門内圧変化率は、芍薬甘草湯群の塗布後3 hで78.8±13.5%(n=10, mean±S.D.)となり、対照群に比して有意に低下した(p<0.05)。以上のことから、芍薬甘草湯クリームは慢性裂肛の治療薬として有用である可能性が示された。
著者
永尾 美智瑠 中野 裕佳子 田島 正教 杉山 恵理花 稲田 睦 佐藤 均
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

背景・目的:近年、カンナビジオール(CBD)の臨床的な有用性が注目されている。CBDはシトクロムP450(主にCYP3A4及びCYP2C19)で代謝されるとともに、CYP阻害作用を有することが報告されているが、in vivo研究はほとんど行われていない。本研究ではCBD動態の用量依存性について検討するとともに、CYP3Aを介した薬物間相互作用の可能性についてin vivo条件下で検討した。方法:CBD製剤として,当部門で開発したCBDナノエマルション製剤(CBD-NE)を用いた。一晩絶食させたWistar系雄性ラットにCBD-NE(5, 10, 25, 50 mg/kg)を経口投与し、経時的に採血した。得られた血漿は固相抽出後、LC-MS/MSにて血漿中CBD濃度を測定し、薬物動態パラメータを算出した。CYP3A阻害剤としてケトコナゾール(KCZ)を、CYP3A基質としては13C-エリスロマイシン(呼気試験)を用いて、CYP3Aを介した薬物間相互作用の検討を行った。結果:CBD投与量とAUCの関係は有意な上昇型の非線形性を示し、特にCBD 10 mg/kgを超える投与量において顕著であった。KCZ併用により、CBD 10 mg/kgではAUC及びCmaxの有意な上昇がみられたが、CBD 50 mg/kgでは変化がなかった。 13C-エリスロマイシン呼気試験の結果では、CBD 10, 50 mg/kgにおいてCBDによるCYP3A阻害作用が認められ、1 mg/kgでは認められなかった。考察:今回比較的速やかな吸収性を示すCBD-NEを用いた検討により、経口投与後のCBD動態の非線形性が明らかとなった。CBD高用量においてCYP3A阻害剤KCZ併用による影響がみられなかったことからも、自己代謝阻害による代謝飽和による非線形性と考えられた。またCYP3A阻害作用がみられたCBD 10~50 mg/kgにおけるCmaxは既報におけるCBDのCYP3Aに対するKi値と良く対応していた。今回の検討によりCBD高用量でのCYP3A阻害作用がin vivo条件下においても示された。過去に報告されている臨床報告も併せて考慮すると、10 mg/kg以上のCBD投与量では薬物間相互作用に注意する必要性が示唆された。
著者
中川 公恵
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

脂溶性ビタミンの一つであるビタミンKは、側鎖構造の違いにより同族体に分類される。我々が日常的に摂取している主なビタミンKは、緑色野菜に含まれフィチル側鎖を有するビタミンK1(phylloquinone : PK)であり、この他には菌類が合成し発酵食品に含まれるイソプレン単位6〜16個の繰り返し構造を持つメナキノン類(menaquinone-n:MK-n, n=6〜14)、肉類など動物性食品に含まれるビタミンK2 (menaquinone-4 : MK-4) がある。しかし、哺乳動物の組織には、摂取量が極めて少ないMK-4が最も高濃度に存在する。これは、摂取したPKやMK-nが生体内で変換酵素であるUbiA prenyltransferase domain containing protein 1 (UBIAD1) により、MK-4に変換されるためである。摂取したPKやMK-nは、その構造のままで血液凝固因子や骨基質タンパク質の活性化を担うγ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)の補因子として働くが、これ以外の生理作用は見出されていない。一方、MK-4はGGCXの補因子活性のみならず、核内受容体steroid and xenobiotic receptor(SXR)のリガンドとして転写調節を行う他、PKAやPKCの活性化、神経細胞分化の促進、がん細胞の増殖抑制など、様々な生理活性を有する。つまり、PKやMK-nが生体内でMK-4に変換されることは、極めて重要な生体内変化であり、MK-4は活性型であると言える。MK-4への変換反応を担う酵素UBIAD1は全身の組織に発現しているが、その欠損は致死的であるだけなく、様々な組織機能変化を引き起こす。本講演では、組織特異的UBIAD1欠損マウスの解析結果から、UBIAD1が関連すると予想される疾患とそれに対するビタミンKの有用性について紹介する。
著者
米澤 穂波 池田 朱里 高橋 亮 廣瀬 友靖 岩月 正人 大村 智 砂塚 敏明 上原 至雅 西谷 直之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

Wnt/β-catenin経路は、細胞増殖や分化を制御するシグナルである。この経路の過剰な活性化が腫瘍の発生に寄与することが知られている。我々は、ゼブラフィッシュ胚を用いた表現型スクリーニングから、低毒性なWnt/β-catenin経路阻害剤として抗寄生虫薬のイベルメクチンを同定した。イベルメクチンは、β-catenin/TCF応答配列ルシフェラーゼ活性を低下させ、Wnt/β-catenin経路の標的遺伝子産物の発現を抑制した。また、イベルメクチンは、大腸がん細胞株においてWnt/β-catenin経路を阻害し、APC変異陽性マウスモデルでは大腸腫瘍の増殖を抑制した。イベルメクチンの標的分子を明らかにするため、固定化したイベルメクチンを用いて標的分子を探索し、質量分析によってイベルメクチン結合タンパク質(IvBP)を同定した。さらに、様々なIvBP変異体を用いたin vitro結合実験により、IvBP中のイベルメクチン結合領域をつきとめた。In vitroに加え、PROTACを用いたプロテインノックダウンにより、生細胞中でのイベルメクチンとIvBPの結合も明らかにした。siRNAによるIvBP遺伝子ノックダウンの結果、Wntによるβ-cateninタンパク質レベルの上昇がキャンセルされ、IvBPはWnt/β-catenin経路をポジティブに制御する因子であることが明らかになった。これらの結果から、IvBPを新たな創薬標的分子として提案する。
著者
浅田 あゆみ 鈴木 杏 河本 実季 大嶋 廉之 宮永 佳代 長澤 一樹
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】炎症性腸疾患(IBD)患者はうつ病の有病率が高いが、それは腸管における炎症に起因すると考えられているものの、その詳細は不明である。そこで本研究では、unpredictable chronic mild stress(UCMS)などに対して低感受性のマウスに対してIBDを発症させたときのそのストレス感受性の変化について、うつ様行動の誘発、海馬での炎症関連因子の発現変動を指標として検討した。【方法】IBDは、C57BL/6JCrl系雄性マウス(7週齢)に対し1w/v% デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液を10日間自由飲水させることにより発症させ、その評価は糞便の状態と体重変化に基づいたdisease activity index (DAI) 並びに大腸における炎症性サイトカインの発現により行った。このDSS負荷終了後、マウスに対してUCMS(拘束、強制水泳、明暗サイクルの変動など)を21日間負荷し、そのうつ様所見は強制水泳試験などにより評価した。大腸及び海馬における炎症性サイトカインなどの発現量はreal-time PCRにより解析した。【結果・考察】DSSを摂取させたマウスにおいて、DAI並びに大腸でのIL-1β及びTNF-αの発現の増大を示すIBDの誘発が確認されたが、うつ様所見は認められなかった。これらIBDを発症したマウスに対するUCMSの負荷は、無処置マウスに対するその負荷の場合とは異なり、強制水泳試験において無動時間が延長し、海馬でのIL-1β及びTNF-α発現が増大傾向にあったことから、うつ様所見の誘発が認められた。このうつ様所見を示したマウスのDAIは、DSS負荷直後より低下していたものの対照群と比較して有意に高く、また大腸での炎症性サイトカインの発現量は増大傾向にあった。以上のことから、大腸における炎症の発症がマウスのUCMSに対する感受性を高め、うつ様行動を誘発することが示された。
著者
望月 美也子 長谷川 昇 山田 恭子
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】自閉症スペクトラム障害(ASD)などを含む発達障害は、生まれつきの特性で、子どもの発達の早い時期から症状が現れ、その発達過程に大きな影響を与える。近年、ASD児は定型発達児と比較して、血清ビタミンD濃度(25(OH)D)が不足または欠乏状態であることが報告されている。そこで、本研究は、3歳児を対象者として、サプリメントの摂取による血清ビタミンD濃度の維持が、ASD児の症状緩和に及ぼす影響を明らかにするために行われた。【方法】保護者から同意が得られASDと診断された3歳児男女を対象者とした。血液検査として、25(OH)D、カルシウム濃度、iPTHを測定した。ASD対象児の評価は、小児自閉症評定尺度(CARS)、日本版VinelandⅡ適応行動尺度、短縮版感覚プロファイル(Short Sensory Profiles;SSP)を作業療法士が実施し、サプリメントの摂取前後で比較した。【結果・考察】血液検査より、25(OH)D欠乏状態の児が25%、不足の状態である児が63%であることが明らかとなった。欠乏および不足状態の児がサプリメントを摂取すると25(OH)Dが有意に増加した。自閉検査のうち、介入前と25(OH)Dが有意に増加した介入後を比較すると、CARSおよびSSPの値が低下することが明らかとなった。日本版VinelandⅡ適応行動尺度では、コミュニケーションおよび日常生活スキルにおいて変化が認められた。以上のことから、サプリメント摂取による血清ビタミンD濃度の維持は、ASD児の一部の症状を緩和することが示唆された。
著者
吉田 成一 市瀬 孝道
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景】妊娠中の喫煙が胎児や出生児に悪影響を及ぼすことは広く知られている。新しく開発された加熱式たばこは副流煙が発生せず、受動喫煙により非喫煙者に健康影響が生じないと考えられている。しかし、妊婦が喫煙した場合、妊婦本人のみならず、非喫煙者である胎児に影響を与えることが考えられるが、妊娠期の加熱式たばこの喫煙が出生児にどのような影響を与えるかについての検討は行われていないため、不明である。そこで本研究では、加熱式たばこと従来の燃焼式紙たばこを妊娠マウスに吸入曝露し、出生児マウスの免疫系にどのような影響が生じるか検討した。【方法】ICR系妊娠マウス30匹を1群10匹とし、加熱式たばこ(IQOS)曝露群、実験用紙たばこ(3R4F)曝露群、対照群の3群に分けた。IQOSの気化蒸気及び3R4Fの主流煙の発生はHCI法を用い、妊娠7、14日目に各たばこを4本分、20分間吸入曝露した。出生マウスが5週齢、15週齢の時点における、免疫系への影響を肺胞洗浄液 (BALF) 中の細胞数、肺における発現遺伝子の解析等により評価した。【結果および考察】IQOSの胎児期曝露によりBALF中の免疫担当細胞数は5週齢、15週齢ともに有意な変動を示さなかったが、5週齢において、IQOS群、3R4F群とも対照群と比較して1.5倍の細胞数となり、増加傾向を認めた (p=0.07, p=0.07)。肺で発現する遺伝子を解析したところ、5週齢においてTh1サイトカインであるIFN gamma mRNA、炎症関連因子であるCOX2 mRNAなどで有意な発現抑制が認められた。これらの影響は、幼若期 (5週齢)の免疫系に何らかの影響を与える可能性を示唆するものであり、3R4Fによる影響と同定であった。以上のことから、健康影響が小さいと考えられている加熱式たばこであっても、従来の燃焼式紙たばこと同様の健康影響が生じる可能性が示唆された。
著者
嶋津 怜那 宮口 雨音 五十嵐 大哉 能見 祐理 松本 均
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

目的:アントシアニン(AC)を経口摂取することで様々な機能性が報告されており、その中にアルツハイマー型認知症予防効果がある。しかし、ACは摂取後、体内で各種フェノール酸へと代謝されることが知られており、この効果に寄与する活性成分が特定されていない。そこで本研究では、ACおよびAC由来の代謝物とされ、尿中で検出される各種フェノール酸に関して、血液脳関門(BBB)の透過性を比較することで、AC投与時の有効成分の探索を行った。方法:雄性Wistar RatにカシスAC抽出物あるいはイチゴAC濃縮粉末をそれぞれ経口投与し、投与前、投与後0~4h, 4~8h, 8~24hに尿を回収し、尿中のACおよび代謝物をLC-MSMSで定量した。また、投与後2, 18hにおける脳中のACおよび代謝物もLC-MSMSで分析した。続いて、Wistar Rat由来のBBBキットを用いてACおよび代謝物のBBB透過性を検討した。結果および考察:カシスAC抽出物およびイチゴAC濃縮粉末を投与したラットの尿からは、ACおよび代謝物として3,4-Dihydroxybenzoic acid (PCA), Caffeic acid, Vanillic acid, Gallic acid, Ferulic acid, Syringic acid, 4-Hydroxybenzoic acid(4-HBA), 3-(4-Hydroxyphenyl)propionic acid(HPPA), 2,4,6-Trihydroxybenzaldehyde(PGAldehyde), 2,4,6-Trihydroxybenzoic acid(PGAcid), Hippuric acidが検出された。これらの化合物は投与前の尿中にはほとんど含まれていなかった。そのうちカシスAC抽出物投与のラット脳組織中には、Gallic acidおよびHippuric acidが、イチゴAC濃縮粉末投与のラット脳組織中にはAC、4-HBA, PCA, Hippuric acid, そしてHPPAが存在することが分かった。これらの化合物を中心にBBB透過性を検討したところ、ACと比較してHPPAなどの一部のフェノール酸におけるBBB透過性が高いことが分かった。このことから、ACが体内で変換されて様々なフェノール酸となり、効果を発揮する可能性が示唆された。
著者
恒岡 弥生 富田 幸一朗 高橋 勉 篠田 陽 藤原 泰之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】メタロチオネイン(MT)はカドミウム(Cd)や亜鉛などの重金属の曝露により肝臓をはじめとする様々な組織で誘導合成されることが知られているが、血管周囲脂肪組織(PVAT)におけるMT誘導合成に関する知見はない。そこで今回、PVATのMT発現誘導に対するCdの影響を検討し、PVATのMT発現誘導における基礎的知見を得ることを目的とした。【方法】8週齢雄性C57BL/6JマウスにCd(1 mg/kg)を腹腔内投与し、3時間後に肝臓およびPVAT付き胸部大動脈を摘出した。さらに胸部大動脈は内膜画分、中膜と外膜画分、PVAT画分の3つの画分に分けた後、それぞれの組織からトータルRNAを抽出し、各遺伝子のmRNA量をリアルタイムRT-PCR法により測定した。【結果・考察】Cd投与3時間後の肝臓におけるMt1 および Mt2 mRNA量は、対照群に比べて約10倍と5倍にそれぞれ有意に増加した。このとき、胸部大動脈から分画した内膜画分ではMt1および Mt2 mRNA量が対照群と比較してそれぞれ約15倍と8倍、中膜と外膜画分ではMt1 mRNA量が約5倍、さらにPVAT画分ではMt1および Mt2 mRNA量がそれぞれ約5倍と4倍に有意に増加していた。以上の結果から、Cdは肝臓と同様に胸部大動脈の内膜組織並びに中膜と外膜組織、加えてPVATにおいても曝露後速やかにMTの発現を誘導することが明らかとなった。MTは有害金属の解毒作用や活性酸素種の消去作用などを示す生体防御因子の一つであることから、PVATをはじめとする血管組織でのMT合成誘導は、Cdによる血管毒性発現の防御に寄与している可能性が考えられる。