著者
福安 智哉 小嶋 舞 藤木 理代
出版者
名古屋学芸大学健康・栄養研究所
雑誌
名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報 = Annual Report of Institute of Health and Nutrition Nagoya University of Arts and Sciences (ISSN:18821820)
巻号頁・発行日
no.11, pp.35-40, 2019-12

【目的】 運動は、健康増進、生活習慣病の予防・改善、減量効果が期待されるが、効果が出にくい人も多い。運動の継続には「運動に関心をもつ」ことが重要である。また減量効果に遺伝的素質も影響する。そこで本取り組みでは、血糖測定などの体験型学習を取り入れた「健康運動教室」を開催し、参加者が健康と運動の関係を実感し、「運動に関心をもつ」ことができるような講座を目指した。また、遺伝因子による効果の個人差については、脂質代謝に影響するβ3アドレナリン受容体(β3-AR)の遺伝子多型を解析し、体脂肪減少効果との関連を検証した。【方法】 「日進市生涯学習講座」の参加者38人(男性8人、女性30人、年齢60.8±12.5歳、BMI 23.9±3.1)を対象に、「健康運動教室」を4ヶ月間に渡り全6回実施した。各講座で、健康と運動の関わりについての講義に加え、運動の実践、血糖測定、体組成の測定などの体験型学習を実施した。遺伝子解析は、同意を得られた25名を対象に、口腔粘膜より採取したDNAを用いて、β3-AR Trp64Arg(rs4994)をRFLP法で解析した。講座実施後、自記式アンケート調査を実施した。【成果と考察】 約7割の人が講座に継続して出席した。出席者へのアンケート調査の結果、「講座をきっかけにやる気や行動に変化があった」と回答した人が9割以上であった。「やってみたい運動」「実際に実行・継続できた運動」については、ラジオ体操やウォーキングなどの回答数が多かったことから、日常生活に取り入れやすく、継続しやすい運動を具体的に示し、体験させたことが効果に繋がったと考えられる。本講座で実施した血糖測定で、参加者は足踏み程度の軽度の運動を15分間実施するだけで、スイーツ摂取による血糖上昇を抑制できることを体験し、運動が体脂肪減少だけでなく、血糖コントロールにも有効であることを実感できた。遺伝因子と減量効果については、β3-AR 遺伝子が正常型の17人中6人において体脂肪量が減少した。一方、Trp64Arg 多型をもつ8人においては減少しなかった。【結論】 健康増進のための行動を実行に移し、継続させるためには、知識や情報を提供することのみならず、日常生活に取り入れやすい実践例を具体的に示し、体験させることが重要である。さらに介入による体脂肪率減少効果を上げるためには、それぞれの体質や生活習慣に応じた食生活や身体活動を提案していく必要がある。