著者
小幡 憲郎 児玉 省二 半藤 保 竹内 正七
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.413-421, 1980-04-01

異なった免疫能を持つだウィスター系ラット(無処置群,胸腺摘除群,プレドニゾロン投与群)の腎被膜下に,妊娠5〜11週の正常遊離絨毛を移植し,移植絨毛の変化を形態学約に検討した.1)宿主(ラット)の移植絨毛に対する免疫学的応答としての小円形細胞浸潤は,無処麓群では移植後3日で認められ,以後増強し14日目には全例に認めた.胸腺摘除騨では18〜30%にしか小円形綱胸浸潤はみられず,免疫抑制が示唆された.2)絨毛細胞表面のアルシアンブルー染色陽性物質の有無と小円形細胞浸潤の関係を無処置群について検討した.本染色陽性物質陰性例の66%,陽性例の36%に小円形細胞浸潤がみられ,本染色陽性物質の免疫保護作用が強く示唆された.3)移植絨毛生着率は移植後5目,7日目で胸腺摘除群では他群に比べて有意に高率であった.しかし生着期間の延長は胸腺摘除群,ブレドニゾロン投与群に認められなかった.4)移植絨毛細胞の増確は,胸腺摘除群が他の2群に比べ,移植後5日,7日目で有意に大であった.5)増殖絨毛細胞のpopultionはラングハンス細胞が主体であり,核の大小不同,核分割像,核小体がみられた.またblood space,syncytal lacunae 島=状構造および浸潤部位ではProteolysis 作用がみられた.絨毛構造の新生はなかった.今回の実験は人絨毛組織の異種移植という非生理的なシステムを用いているものであるが,人絨毛細胞の旺盛た増殖力とそれに及ぼす宿主の移植免疫のかかわりを強く示唆するものと解された.さらに絨毛細胞の増殖,分化におよぼす胎児の存在の影響を示唆する成績であり,これは胞状奇胎発生における絨毛細胞の増殖と関連して,極めて示唆に富む成績であった.