著者
小松 節子
出版者
日本プロテオーム学会
雑誌
日本プロテオーム学会誌 (ISSN:24322776)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.29-37, 2021 (Released:2022-01-08)
参考文献数
56

今世紀における地球温暖化や人口増加は,国際的に食糧危機をもたらす深刻な問題である.特に,温室効果ガスの排出による異常気象は,降水量や降雨パターンを大きく変動させ,作物の収量低下を招いている.つまり,環境ストレス耐性作物の作出を目指した耐性機構の解明は,重要な課題である.そのためには,生命現象をシステムとして理解し,複雑なタンパク質ネットワークを正確に解析することが必要である.ゲノム上遺伝子重複が多い作物においては,環境ストレス耐性機構を遺伝子レベルから明らかにすることは容易ではないので,プロテオミクス技術を農学分野へ展開することに着目した.特に,日本ではダイズを用いた食品の消費が多いにも関わらず,湿潤な気候のためダイズの生産が極めて限られている.そこで,耐湿性ダイズの作出を目的として,プロテオミクス技術により包括的に解析し,さらに分子生物学的検証実験により,湿害耐性機構を解明したので概説する.プロテオミクス技術で同定された鍵となるタンパク質をマーカーとして作物品種選抜へ利用することにより,ストレス耐性作物の作出が可能となることが期待される.