著者
小松崎 一則 小崎 俊男 橋野 正史 矢内原 巧 中山 徹也 森 弘
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.1095-1102, 1987-07-01

副腎性ステロイドの一つであるC^21Δ^5系Pregnenolone sulfate(P_5S)は胎盤性Progesterone(P_4)の前駆体として知られ、妊娠時に母体胎盤胎児系をめぐる内分泌環境に大きな影響を及ぼす重要な物質の一つである。しかし、in vivoにおけるP5Sの母体胎盤胎児系における代謝動態に関しては不明な点が多い。そこで、非標識P_5S及び重水素標識P_5S(2,2,4,6-d_4-P_5S)を妊娠末期母体へ投与し、追跡実験を行った。I.非標識P_5S投与例:妊娠末期母体(5例)へP_5S(30mg)投与し、15分、30分、60分、120分、24時間後の母体血中P_5S、20P_5S、P_4、20P_4及びDHA-S値を安定同位体を内部標準として用いたGas chromatography-Mass spectrometry(GC-MS)法で測定した。 (1)P_5S:投与後15分で前値に比し約4倍に増量し以後減少、24時間後に前値レベルとなった。 (2)20P_5S:15分後に速やかに約2倍に増加し、120分まで高値を持続、24時間後に前値に復した。 (3)P_4及び20P_4は、実測値では増加傾向を示すが有意差はなく、投与前値を100とした変化率では、15分より上昇し、30分でピークに達し120分まで有意に増加、P_4は24時間で前値に復したが、20P_4は24時間後でも前値に比し高値を示した。 (4)DHA-Sは、実測値、変化率共に時間的変化が認められなかった。 II.重水素標識P_5S(d_4-P_5S)投与例:妊娠末期母体(1例)へd_4-P_5S(30mg)を投与し、60分後の母体血、胎盤組織、臍帯静脈血、及び投与後120分間の母体尿中のP_5S関連ステロイドをGC-MS法にて検索し、各ステロイドごとにd化ステロイドの割合(d%)の算出を試みた。 1)母体血:P_5S(84.5%)、17P_5S(95.5%)、16P_5S(51.6%)、20P_5S(85.1%)、20P_5(71.2%)、P_4(10.9%). 2)胎盤組織:20P_5(16.1%)、20P_4(3.2%)、P_4(3.1%). 3)臍帯静脈:P_4(11.2%). 4)母体尿:P_5S(40.6%)、20P_5S(56.6%)、5β-pregnane 3α、20α diol(34.8%)いずれの検体よりもC_19、C_18系ステロイドは検出されなかった。以上より(1)母体血中P_5SもP_4の前駆物質となり得ることがin vivoで示された。しかし、妊娠血中に著増するP_4の材料としては、母体血中P_5S以外に主に由来することが示唆された。(2)母体血中P_5Sは、C_19、C_18系ステロイドへは、容易に転換されないことが示唆された。