著者
小林 カオル
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

リファンピシンによる小腸P-糖タンパク(MDR1)の誘導には、核内受容体であるpregnane X receptor (PXR)が重要な役割を果たしており、小腸には他の臓器と比較してPXRが多く発現していることが知られている。しかし、小腸よりもPXRが高発現している肝臓ではMDR1の誘導は認められない。それに対し、MDR1と同様にPXRを介してリファンピシンにより誘導されるCYP3A4の場合、肝臓と小腸の両方で誘導が認められる。このようなMDR1のPXRを介した小腸特異的な誘導がどのようなメカニズムで起こっているのかは不明である。本研究では、リファンピシンによるMDR1の誘導がヒト大腸がん由来細胞のLS180で認められるのに対し、ヒト肝ガン由来細胞のHepG2細胞では認められないことを明らかにした。この二つの細胞株にはともにPXRが発現しておりリファンピシンによるCYP3A4の誘導は認められる。そこで、この二つの細胞株を比較することによりMDR1のPXRを介した小腸特異的な誘導メカニズムの解明について検討を行った。まず、MDR1遺伝子のレポータージーンアッセイを行うことにより、転写開始点より上流-7970/-7011の領域がLS180細胞におけるMDR1遺伝子のリファンピシンによる転写活性化に重要であることを明らかにした。さらに、cDNAサブトラクションによりLS180細胞には腸管に発現していて肝臓に発現していない転写因子epithelial-specific ets factor (ESE-3)が多く発現していることを明らかにした。また、HepG2細胞にESE-3を導入することにより、リファンピシンによるMDR1遺伝子の転写活性化が認められることが明らかとなった。ESE-3に対するsiRNAを用いてLS180細胞のESE-3をノックダウンしたところ、リファンピシンによるMDR1 mRNA誘導の低下が認められた。これらの結果より、LS180細胞において認められたリファンピシンによるMDR1の誘導には、PXRに加え、ESE-3が重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、ESE-3を発現しているLS180細胞を用いて、21種の化合物によるMDR1 mRNAの誘導とMDR1レポーター活性の上昇との関係を調べたところ、有意な正の相関が得られた。これらの結果より、LS180細胞はPXRとESE-3を共に発現しており、この細胞を用いたMDR1 mRNAの誘導とMDR1レポーター活性の上昇は、小腸特異的なP-糖タンパクの誘導を予測し得る可能性が強く示唆された。