著者
梶村 政司 森田 哲司 政森 敦宏 小川 健太郎 児玉 直哉 小林 功宜 山本 真士 奈良井 ゆかり 濱崎 聖未 田中 亮
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1469-GbPI1469, 2011

【目的】<BR> 管理者の業務には,目標管理や人材育成,時間管理,情勢分析等がある。その中でも,人材(部下)育成は部署内の業務遂行上効率化に影響を与える内容である。<BR> そうした人材育成の最終目標は部下の自律的な創意工夫,創造力の醸成が可能になることであり,現場においてはどんな指導・教育ができるだろうか。一般的には,感性を磨くという,非常に抽象的で曖昧な表現で終わる指導書が多い。<BR> そこで,今回当科で日常的に行っている「気づく力」を身につけるための方法を紹介し,その結果を業務改善の観点から考察したので報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 当科ではスタッフ8名が,平日勤務の朝5分程度の時間を利用して業務内容を中心に「気づき」(可視化トレーニング)の発表を行っている。その「気づき」の内容は,職員によって偏りがあるか明らかにするために,まず全スタッフ合意の下で分類した5つのカテゴリー(リスク,連携,運用,サービス,整理)と個人属性(性別,経験年数)から構成される分割表を作成した。そして,カイ2検定を行ってそれらの関連性を分析した。調査期間は,2009年6月から2010年9月までの1年3ヶ月,315日間である。<BR> この取り組みによる業務改善の判定は,科内におけるインシデント,アクシデント発生件数と,患者からの「苦情件数(ご意見箱)」を指標に用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR> スタッフには,今回の研究目的を説明した上で,発言内容をデータとして使用する許可を得た。<BR><BR>【結果】<BR> スタッフの構成は,男性PT5名,女性OT2名,女性の助手1名であり,経験年数10年以上5名,それ以下3名である。管理者と中途採用者は,除外した。<BR>期間中の「気づき」の総件数は313件で,カテゴリー別内訳と発言率は,リスク42件(13%),連携25件(8%),運用127件(41%),サービス86件(28%),整理33件(10%)であった。各カテゴリーの発言数と職員の性別との関連についてカイ2検定を行ったところ,p=0.435で有意な関連はなかった。また,各カテゴリーの発言数と職員の経験年数(10年以上もしくは10年未満)との関連についても有意でなかった(p=0.991)。<BR> 科内インシデント発生数は,全体で14件(院内1,697件,調査前年4件),2009年7件,今年3件であった。内容は転倒11件,人工股関節脱臼2件(年間300症例),熱傷1件。アクシデントは2009年に発生した熱傷の1件(院内40件)であった。また,苦情件数は,6件(院内508件,調査前年4件),2009年2件,今年0件であった。内容は,リハ開始時間やスタッフの接遇面に対する不満内容が多かった。これらの結果から,インシデント発生数と苦情件数は「気づき」の発表を開始した翌年から減少していることが示された。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の研究ではスタッフ間の性別,経験年数に「気づき」に関してカテゴリーに有意な差はなかった。<BR>この内容で最も多かったカテゴリーは直接業務の「運用」であり,日常診療の中で身近に感じる問題であることから,顧客(患者)に影響を及ぼしやすい部分ほど敏感になっていることが伺えた。 <BR> 一方,最も少ないカテゴリーは間接業務の「連携」ということであった。これは,他部署を介する機会に遭遇した時の問題であるため,気づき難かったことが推察される。<BR> リスク面においては,発言率13%と予想よりも低い結果であった。これは,インシデントやアクシデントの科内における発生件数の低さが影響したと考える。すなわち,リスクに関しては日常より常に「即改善」を実行し,安全で安心な診療が実行されているためと考える。<BR> また,患者サービスにおいてもリスクと同様に,苦情件数が少数のために発言も少なかったと推測する。<BR> こうした科内のリスク回避の取り組みを航空業界では, Crew Resource Management(CRM)「何か気づいたことや気になったことがあれば口に出す」という教育で行っている。そこで当科が実施した「可視化トレーニング」は,CRM同様に情報を共有化し即断即決を行うことでリスクの芽は小さいうちに排除する,という効果の現れと考える。<BR> この「可視化トレーニング」に対するスタッフの感想は,自ら行った業務改善やリスク回避の指摘などが,すぐに解決されることに喜びを感じる,という声を聞いている。これは「気づき」による人材育成の目的に挙げている,スタッフのモラル向上,信頼感の醸成,関係者とのコミュニケーション,スタッフの満足感など,人間性尊重の側面を向上させる点において非常に効果的であったと思われる。<BR> 今後は,個人発言の特性(偏り)を平準化した「気づき」に対する指導を行い,より一層の効率的で安心・安全な業務運営に役立てる方針である。