著者
小林 宏子
出版者
上智短期大学
雑誌
上智短期大学紀要 (ISSN:02877171)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.73-84, 2008

本論は、聖マリア修道女会創立400周年に当たり、修道会創立に到る聖ジャンヌ・ドゥ・レストナックの体験を、挫折の中で見出されたアイデンティティという観点から論述し、アイデンティティ確立の課題に直面する学生達に、模範と励ましを提示する試みである。ジャンヌは、世間からは理想の道の挫折と評価される、観想修道会からの退会という体験の中で、神から新しい修道会創立への招きを受け取り、その実現へと踏み出して行く。この新しいアイデンティティの受諾と実現のためには、以前の理想像としての自己を放棄する必要があった。彼女に、この自己放棄を果たさせ、新しい可能性へと開く勇気を与えたのは、イエスの生き方を理想とし、そのイエスを自己のアイデンティティの原型として受け取る信仰であり、イエスに一致して神が示す招きを果たそうとする愛である。このジャンヌの経験は、挫折の中から、新たな道を見出すキリスト教信仰の力強い模範である。