著者
小林 将太
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.93-103, 2010-03-31 (Released:2017-04-22)

本稿は,L.コールバーグのジャスト・コミュニティにおける現実生活の意味を解明することを目的とした。コールバーグ理論における道徳性の捉え方を解釈し直すために彼の自我発達の理論を検討し,そのうえで自我発達の観点からジャスト・コミュニティの授業について考察した。その結果,第一に,コールバーグ理論における道徳性の捉え方が,彼が初期から仮定として与える自我発達の観点から包括的に解釈されることを示した。道徳性発達が他の社会的認知の変容とともに社会性発達の一部として自我発達のなかに包摂されること,加えて道徳性それ自体も自我の他の領域との関係のなかで捉えられていることを明らかにした。第二に,自我発達の理論の強調に伴い,コールバーグにおける教育の目的観が道徳性発達から自我発達へと変容したことを示した。これは,コールバーグ道徳教育論を解釈する際に自我発達の観点に立つ必要性を意味する。第三に,ジャスト・コミュニティの授業において社会の現実生活が提示されること,そしてそれが学校の現実生活について議論することと行為変容とを結びつけることに寄与すると考えられることを解明した。授業は元来,学校の現実生活の議論を通した生徒の学習と社会の現実生活とを結びつける場として構想されていた。授業は,学校と社会に関する社会的認知を結びつけることで,生徒の自己を社会に向けて再構築させることを可能にすると考えられていたといえる。