著者
小栗 久典
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.74, no.26, pp.153-164, 2021 (Released:2021-11-18)

仮想事例による検討を踏まえると,クラウド事業者,当該クラウド事業者が提供する機能を利用して自己のサービスを提供する企業,当該企業のサービスの利用者がネットワークで結びついて,所定のシステムやサービスを提供するような事案においては,従来論じられてきた,「支配管理性」に関する判断基準を前提とすると,道具理論・支配管理論に基づいたとしても,特定の主体につき特許権侵害(直接侵害)を問うことが難しくなり,結果として特許権者が十分な救済を受けられなくなる恐れがあるように思われる。このため,特許権侵害(直接侵害)につき,より実情に即した柔軟な判断を可能とする上では,従来の,各主体に対しての支配管理性の有無を問題とする基準に,もう一つの選択的な基準として,被疑侵害システムに対する支配管理を誰が行っているかという観点から「支配管理性」を考えるという基準を加えることにより,「支配管理性」の判断基準を拡張することにつき,検討する余地があると考える。