著者
湯浅 竜
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.74, no.26, pp.165-177, 2021 (Released:2021-11-18)

クラウドサービス等のテクノロジーの進化に伴い,国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明が増加している。日本国内で提供されるサービスにおいても,端末は日本国内にある一方で,サーバは日本国外にあるケースも多く,このようなサービスに関する発明について,特許権による保護が適切に行われることが重要となる。 国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明については,域外適用や複数主体の観点から特許権侵害に関する議論が行われてきた。しかし,その一方で,特許権侵害が認められた場合の差し止め行為については,十分な議論が行われていない。本稿では,前半で国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明の動向と特許権侵害に関する議論について整理を行い,後半では国境をまたいだ知的財産権侵害に関する判例等を参照する形で国境をまたいだ特許権侵害行為の差し止め行為の実現性について考察を行った。
著者
細田 芳徳
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.199-228, 2022 (Released:2022-11-24)

内在特性を備えた物の新規性や当該内在特性により導かれる用途発明の新規性は,化学・バイオ分野に特有な問題であり,なかでも当業者にとって認識困難な内在特性に対する扱いには,従来から種々の立場の解釈があり,見解も分かれやすい。すなわち,内在特性について出願後に追試実験データを参酌して判断することの可否や,例えば,美白化粧料が公知の場合に,同じ成分からなるシワ抑制用化粧料の発明に新規性を肯定することの是非は,議論の多いところである。今回,技術的に未解明な要素が比較的多い免疫関連分野の発明に関する最近の裁判例(IL-17 産生の阻害事件,IL-2 改変体事件,及びワクチン組成物事件)を例にして,特に,用途発明に焦点をあてて,これらの問題点を検討した。本稿では,従前からの見解と対比検討をしながら,多少異なる視点から,新規性についての見解の提示を試みた。
著者
松下 正
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.1-14, 2022 (Released:2022-11-24)

膨大なデータの収集や管理が可能になったことから,画像認識や予測ができるAI 学習用プログラムの提供が実用的になりつつある。かかるプログラムも自然法則を利用する限り,従来のコンピュータプログラムと同様に特許の保護対象となる。 ここで,AI 学習用プログラムは,通常のプログラムと異なり,本質は,そのパラメータにある。にもかかわらず,かかるパラメータ(データの集合物)の特許法による保護について,特許制度小委員会報告書案では,前記パラメータは法上の「物」に該当するのか疑義があるため,当該パラメータをネット配信等する行為を侵害とできない問題点について指摘がなされているものの保護すべきか否かについては言及がなされていない。 本稿では,前記パラメータを,特定の処理を行うプログラムを構築するための専用部品,すなわち,「プログラムの部品」として,「物」の発明に該当すると解釈できないかについて検討する。
著者
前田 健
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.74, no.26, pp.25-47, 2021 (Released:2021-11-18)

ビジネス関連発明は,ビジネス方法やゲームのルールはそれ自体としては保護されず,あくまで,それらを実装するための科学技術としての側面にかぎり,特許保護適格性が認められると解される。したがって,ビジネス関連発明のクレーム中に,実装するための科学技術と認められる部分が全くなければ「発明」該当性を認めるべきではない。また,ビジネス方法やゲームのルールそれ自体の独占を防ぐためには,進歩性要件に大きな役割が期待される。進歩性の判断は,引用発明との相違点のうち,自然法則を利用していない部分に係る相違点は想到できたことを前提として,専ら,その他の自然法則を利用した部分の相違点の容易想到性を判断することにより行うべきである。いったん成立したビジネス関連発明の技術的範囲を限定的に解釈することで適切な保護範囲に限定することは難しいので,特許性判断の役割は大きい。
著者
下萩原 勉
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.74, no.26, pp.121-135, 2021 (Released:2021-11-18)

データ駆動型社会への移行が予期される中,データの重要度や注目度はますます上昇している。本稿では,データ(構造)の特許法における保護に関して,審査基準や審査ハンドブックを整理するとともに,発明該当性による拒絶査定が取り消された審決事例(不服2018-2483)を取り上げ,検討する。
著者
小栗 久典
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.74, no.26, pp.153-164, 2021 (Released:2021-11-18)

仮想事例による検討を踏まえると,クラウド事業者,当該クラウド事業者が提供する機能を利用して自己のサービスを提供する企業,当該企業のサービスの利用者がネットワークで結びついて,所定のシステムやサービスを提供するような事案においては,従来論じられてきた,「支配管理性」に関する判断基準を前提とすると,道具理論・支配管理論に基づいたとしても,特定の主体につき特許権侵害(直接侵害)を問うことが難しくなり,結果として特許権者が十分な救済を受けられなくなる恐れがあるように思われる。このため,特許権侵害(直接侵害)につき,より実情に即した柔軟な判断を可能とする上では,従来の,各主体に対しての支配管理性の有無を問題とする基準に,もう一つの選択的な基準として,被疑侵害システムに対する支配管理を誰が行っているかという観点から「支配管理性」を考えるという基準を加えることにより,「支配管理性」の判断基準を拡張することにつき,検討する余地があると考える。
著者
中山 真理子
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.76, no.29, pp.193-212, 2023 (Released:2023-11-17)

店舗の外観・内装・陳列方法の保護の可否と状況について、不正競争防止法に関する判例と意匠及び商標の出願・登録例を見ながら考察を行った。商品・サービスそのもの以外の周辺の要素も生かしてブランディングを発揮し差別化を図ることが競争力を高めるにあたり重要となってきている昨今の状況において、非登録型制度と登録型制度をうまく活用し、今後より柔軟で効果的な保護が図られ、強みを発揮できる環境となっていくことが期待される。
著者
林 いづみ
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.76, no.29, pp.131-149, 2023 (Released:2023-11-17)

我が国は、データ利活用の促進に向けた環境整備の一環として、限定提供データ制度を創設した。本稿では同制度創設の背景、運用指針の改訂及び制度施行後3年の見直し議論について概観する。また、データ共有が直面する主な障壁と、これらに対処しようとする欧州データ戦略に基づき2022年に発表されたデータ法案及びEHDS法案を紹介し、日本のデータ戦略への示唆について検討する。
著者
武田 邦宣
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.76, no.28, pp.79-92, 2023 (Released:2023-07-18)

5Gネットワークの展開、IoTの進展によって、SEPライセンスのあり方を巡り新たな問題が生じている。とりわけ問題となっているのは、部品から最終製品に至るサプライチェーンにおいて、誰がライセンス契約の締結主体になり得るのかというものである。これはバリューチェーンライセンスのあり方に関する問題と呼ばれ、FRAND宣言によってSEP権利者は望む者全てに対してライセンス義務が生じるとする立場(LTAの立場)と、FRAND宣言によってもSEP権利者はライセンス先について裁量を失うことがないとする立場(ATAの立場)が鋭く対立している。 本稿は同問題に関するEU競争法の議論を整理検討する。先例となるHuawei v. ZTE事件判決では、FRAND宣言によって、第三者にライセンスを受け得る「正当な期待」が生じるとされた。LTAの立場の論者は、同「正当な期待」を自らの主張の根拠とする。 本稿は同「正当な期待」を巡る学説状況を整理するとともに、対立する議論を中立化するためのあり方についての議論状況も検討する。
著者
池田 毅
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.76, no.28, pp.93-106, 2023 (Released:2023-07-18)

わが国の独占禁止法は従来同じ取引段階の事業者間の水平的な競争にのみ注目してきたが、ビジネスの多様化を踏まえれば、サプライチェーン内で取引を行う異なる取引段階に属する事業者間においてマージン・付加価値を奪い合う垂直的な競争にも着目する必要がある。優越的地位の濫用の規制根拠についても、垂直的な競争を人為的な手段で歪めることを規制するものと捉える垂直的競争阻害説が、対消費者の優越的地位の濫用の説明に課題を有する間接的競争阻害説や、過剰な介入による弱者保護との批判を受けうる搾取説よりも合理的であり、近時の公取委の優越的地位の濫用の適用範囲の拡大もよりよく説明できる。仮に、標準必須特許の権利者がパテントプールの形成や内部的な合意の形成において、実施者との間の垂直的な競争を人為的に歪めていると評価される場合には、優越的地位の濫用を根拠として規制できる可能性がある。
著者
重冨 貴光
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.99-122, 2022 (Released:2022-11-24)

第4 次産業革命としてAI・IoT 技術が進展し,産業構造が「モノ」から「コト」に急激に変化し,新たなサービスに向けた技術開発が従来にもまして活発化する中,サービスの提供に向けられた特許として,方法特許の効力をどのように考えるべきかという問題意識が生じている。 物の特許の実施品(方法特許の専用品)を譲渡した場合において,当該物を使用する方法特許が消尽するかという論点については,産業構造の変化を踏まえつつ,サービス提供手段に係る物の開発製造業者に開発成果に対する代償が還流される仕組み作りを行うべく,少なくとも一定の場合には方法特許について消尽を否定する解釈論を明確化することが望ましい。消尽しない方法特許発明の選別手法として,方法特許発明の使用態様(同時に2 以上の複数拠点に対して方法の使用がされているか否か)を判断基準として採用するアプローチ(方法の使用態様基準アプローチ)を採用することが望ましい。
著者
前田 健
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.35-55, 2022 (Released:2022-11-24)

近時,製品(商品及びサービスを含む)の単位・対価関係が明確ではないビジネスモデルの重要性が増している。本稿は,それらの「新たな」ビジネスモデルを①複数の製品の組合せ,②複数の顧客グループの組合せ,③同一顧客グループ内での価格差別に分類し,実際の裁判例を分析して損害額算定上の課題を抽出した。売上げ減少の逸失利益の算定においては,事実的因果関係を有する損害額を算定するために,①権利者製品・侵害者製品の確定,②それら製品の付随品も①に含めてよいか,③侵害がなかった場合に侵害者が提供し得た代替製品の認定が論点となる。議論に際しては,独立かつ完結していると評価し得るものであって支払われる一群の対価が密接不可分といえる範囲のものを,製品の単位と捉えるべきだろう。また,仮に保護範囲を限定する立場を採るなら④売上げに対する知的財産の寄与度の認定も論点になるが,排他権を行使すれば確保し得たすべての逸失利益が保護範囲に含まれると考えるべきだろう。ライセンス料相当額の算定は,理念的には侵害者利益の一部を権利者に分け与えるよう行うべきだが,同様に①~④の要素が重要となる。