- 著者
-
小椋 力
- 出版者
- 日本精神保健・予防学会
- 雑誌
- 予防精神医学 (ISSN:24334499)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.1, pp.2-19, 2018 (Released:2020-12-01)
- 参考文献数
- 16
太平洋戦争中、沖縄県内で多数の犠牲者が出た。ある米軍記者は「醜さの極地」と表現した。終戦から70年以上が経過した現在でも、日本における米軍施設の約70%がこの狭い県内に存在するとの厳しい現実がある。
終戦後の沖縄では、米軍政府の指導・助言・支援もあって「プライマリケア」「救急医療」のレベルは現在でも高い。
戦前の沖縄においては民間療法と監置のみで、精神科医療といえるものはなかった。精神衛生実態調査が1966年に実施され、精神障害有病率が本土の約2倍であり、障害者の7割以上が治療をうけていないことが明らかになり、各方面に大きなインパクトを与えた。その結果、現在では精神科施設数、マンパワーのいずれにおいても全国平均を上まわるに至った。
精神障害の予防に関連して精神疾患の脆弱要因の研究を実施した。統合失調症、うつ病などについての知見を国際誌などで報告した。予防に関する実践活動としては、子育て支援外来(県立宮古病院、琉球大学病院)、早期発見・早期対応活動(県立中央児童相談所、琉球大学保健管理センター)、高齢者に対する早期発見・早期対応活動(渡嘉敷村)、精神障害者による重大犯罪の実態調査、精神障害の予防に関する費用対効果研究などである。
脆弱要因研究の成果を実践活動に十分に生かせなかったし、活動の継続に諸種の困難があった。これらの対策が今後の課題である。