著者
小椋 力
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.3-22, 2017 (Released:2020-12-01)
参考文献数
15

精神障害の予防、とくに再発予防については、日常臨床の中で常に考えられていたであろう。しかし一次予防については、わが国では「大学紛争」などの影響もあって一次予防の研究自体がハイリスクとの考えがあった。したがって「精神障害の予防」が学会等で議論されることはなかった。 第16回日本社会精神医学会学術集会(1996)において、シンポジウム「統合失調症の予防の可能性」が実施され、心配された混乱もなく終了した。最終日の夕方、日本精神障害予防研究会が発足した。筆者が代表世話人となった。第12回研究会から日本精神保健・予防学会として発展的に改組され、水野雅文教授(東邦大学)が理事長に就任し、活動は活発化し会員数も増え現在に至っている。2017年から理事長は鈴木道雄教授(富山大学)に交代となった。 この間、わが国で第1回日本国際精神障害予防学会(2001)、第9回国際早期精神病学会(2014)が開催されたが、本学会が中心的な役割を果たした。いずれの学会も成功した。 精神障害の予防を考えるさい、一次から三次まで含めて重要なことは、脆弱要因の軽減とレジリエンス(回復力)の増強であろう。そこで現在まで報告されている脆弱要因とレジリエンスを取り上げて紹介した。最後に今後の課題について述べた。
著者
小椋 力
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.2-19, 2018 (Released:2020-12-01)
参考文献数
16

太平洋戦争中、沖縄県内で多数の犠牲者が出た。ある米軍記者は「醜さの極地」と表現した。終戦から70年以上が経過した現在でも、日本における米軍施設の約70%がこの狭い県内に存在するとの厳しい現実がある。 終戦後の沖縄では、米軍政府の指導・助言・支援もあって「プライマリケア」「救急医療」のレベルは現在でも高い。 戦前の沖縄においては民間療法と監置のみで、精神科医療といえるものはなかった。精神衛生実態調査が1966年に実施され、精神障害有病率が本土の約2倍であり、障害者の7割以上が治療をうけていないことが明らかになり、各方面に大きなインパクトを与えた。その結果、現在では精神科施設数、マンパワーのいずれにおいても全国平均を上まわるに至った。 精神障害の予防に関連して精神疾患の脆弱要因の研究を実施した。統合失調症、うつ病などについての知見を国際誌などで報告した。予防に関する実践活動としては、子育て支援外来(県立宮古病院、琉球大学病院)、早期発見・早期対応活動(県立中央児童相談所、琉球大学保健管理センター)、高齢者に対する早期発見・早期対応活動(渡嘉敷村)、精神障害者による重大犯罪の実態調査、精神障害の予防に関する費用対効果研究などである。 脆弱要因研究の成果を実践活動に十分に生かせなかったし、活動の継続に諸種の困難があった。これらの対策が今後の課題である。