- 著者
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小武海 櫻子
- 雑誌
- 人文 (ISSN:18817920)
- 巻号頁・発行日
- no.19, pp.19-42, 2021-03
明清時期の中国では、儒教・仏教・道教三教混交の道徳を説く善書や布教パンフレットが数多く刊行された。とりわけ一九世紀以降扶乩という神降ろしで得た乩示に基づいて新たな善書が作成され、鸞堂や新興の民間宗教慈善団体を通じて広く出版されて中国各地に普及した。しかしながら、このような善書や布教パンフレットを出版する担い手の姿については、資料の制約から探ることは難しく、その出版活動の全体像はこれまでほとんど明らかにされてこなかった。本稿では、重慶北碚区図書館の所蔵する合川会善堂慈善会という善堂の出版物を分析し、四川東部の県城にある一つの善堂が行う出版活動の様相を跡づける。それにより、会善堂では鸞堂と同善社という二つの異なる宗教的系譜に基づいて書籍が収集され、教団支部間の情報共有が同善社の宗教ネットワークに基づく宗教パンフレットの出版と流通によって可能であったことを明らかにした。