著者
小泉 千尋
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.161-175, 2019 (Released:2021-04-12)

近年,科学技術を巡って専門家と市民の対話の重要性が高まっている。本研究は,そうした対話の場の一つであるサイエンスカフェをフィールドとし,話題提供者と呼ばれる専門家が一般参加者の「科学知では答えられない/答えにくい問い」にどのように対処するのかを検討した。その結果,話題提供者は科学知において答えられる範囲については科学知フレームで応答し,答えられない/答えにくい範囲については社会的議論フレームへと移行した。ところが,社会的議論フレームへの移行が参加者とのコンフリクトを生じさせると,ファシリテーターの介入を契機として,個人見解フレームへと移行していた。こうした話題提供者のフレームシフトは,参加者との対立を回避し,コミュニケーションを継続するためのストラテジーであるといえる。この結果から,話題提供者がフレームシフトを用いて自らのメンバーシップを「話題提供者」から「一参加者」としてその場に参加していた可能性を示唆した。