- 著者
-
小泉 空
- 出版者
- カルチュラル・スタディーズ学会
- 雑誌
- 年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.83-100, 2020 (Released:2020-10-09)
- 参考文献数
- 37
本稿の目的は、フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールが、フランスで1968年に起きた五月革命に立ち会うことで、どのような政治理論を練り上げたかを明らかにすることである。68年五月革命は、その直接行動主義、反権威主義、自主管理といった運動スタイルによって、フランスに限らずその後の社会運動に大きな影響を与え、文化面、思想面でも大きな影響を及ぼしてきた。だが同時に五月革命は多くの批判の対象ともなっており、とりわけ2011年のオキュパイ・ウォールストリート以降、一部の左派理論家からは、五月革命的な運動スタイルの限界を指摘する声も上がっている。そこで本稿は、ボードリヤールの68年論を例にとりながら、あらためて今日における五月革命の意義を考えようと試みる。まず今日の五月革命をめぐる言説を検討しながら、ボードリヤールの68年論を再考する意義を明らかにする。次にボードリヤール68年論の特徴を、複数性、ユートピア、特異性という概念をキーワードに分析する。第3 に一部の論者が批判の対象としている、ボードリヤール68年論と消費社会の絡み合いについて検討する。最後に、ボードリヤール68年論の批判に対抗するために、ボードリヤール68年論のポイントとは、革命が伝播していくプロセスへの着目だということを明らかにする。