著者
小澤 政之
出版者
鹿児島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

カドヘリンの機能(細胞間の接着活性)がいかなる機構で制御されているのかを明らかにする目的で、カドヘリンのみにその細胞間接着性が依存している細胞のモデルシステムを確立した。即ち、ヒト白血病細胞の一つ、K562細胞は、カドヘリンを含む細胞間の接着分子を全く発現いていない。そこで、この細胞にE-カドヘリンの発現ベクターを導入し、E-カドヘリン発現細胞(EK細胞)を得た。EK細胞はE-カドヘリン依存性の細胞間接着性を示し、細胞の凝集塊を形成する。EK細胞の凝集塊を過バナジン酸処理して細胞内タンパク質のチロシンリン酸化レベルを上昇させるとカドヘリンの活性低下が起こり、細胞が解離した。本研究では、過バナジン酸処理によりカドヘリン・カテニン複合体にいかなる変化が起こりカドヘリンの接着活性の低下へとつながったのかを明らかにしようとした。その結果、1)EK細胞を過バナジン酸処理すると、β-およびγ-カテニンのチロシンリン酸化のレベルが上昇し、カドヘリンによる細胞間の接着性が低下すること、2)β-およびγ-カテニンのチロシンリン酸化は両分子のコンフォメーション変化を示し、α-カテニンが複合体から解離すること、3)β-カテニン上のあるチロシン残基を、フェニルアラニン残基に置換した変異β-カテニンをEK細胞で発現させると、過バナジン酸処理により細胞のチロシンリン酸化のレベルを上昇させても、細胞はバラバラになりにくいことが判明した。さらに、この変異β-カテニンからのα-カテニンの解離も著しく抑さえられることが判明した。