著者
榊 佳之 金久 實 小原 雄治 大木 操 中村 桂子 高久 史麿
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は平成2-12年度に行われた特定領域研究「ゲノムサイエンス」の研究成果をまとめ、公表し、我が国のゲノム解析計画を新段階へと発展させることを目指すものである。そこでは「ヒトゲノムの構造解析」、「ゲノムの機能解析」、「ゲノムの生物知識情報」の3項目を中心に各々に成果を取りまとめ、公開シンポジウムなどを通して社会にゲノム研究の現状、意義と今後の展望を示すことを目標とした。研究成果の報告書は、既に平成12年度の研究成果報告と共に5年間のまとめを合わせて研究成果報告書として世に出したので、今年度は公開シンポジウムに焦点をあてて研究成果を社会に公開することとした。公開シンポジウムは日本科学未来館の協力のもと、関東一円の中高生を中心に若者世代を対象として行われ、約300名が参加した。「ゲノムから見たヒト」、「ゲノム科学の医学への応用」、「ゲノムから見た発生分化」などをテマとした。講演と共にパネル討論会も開催した。また未来館長の毛利衛氏の挨拶も頂いた。この公開シンポジウムの企画は文科省ヒトゲノム計画の中核となる本研究班の班会議で決定されたが、その内容は、我が国のバイオサイエンス全般、特に多くの国民の健康に直接かかわる疾患の医学研究の発展にとっても重要なものであり、その社会的意義、必要性、緊急性はきわめて大きいと言える。
著者
新家 利一 中堀 豊
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

Y染色体はその大半の部分が父から息子へと伝達される.したがってY染色体上の多型を解析することはヒトの父系起源の解明につながる.我々はY染色体上に存在する.SRY遺伝子およびDXYS5Y部位に多型を見いだし,以前にHammerらによって報告されたYAP多型との組み合わせにより,日本人男性を4つのハプロタイプに分類した.これらの多型を利用して他民族と日本人との関係を研究すると共に,男性間の表現型に違いがないかどうか検討している.我々は従来行ってきたY染色体に関する分子遺伝学的研究から,Y染色体構造の多様性がヒトの精子数と関連しているとの仮説をもった.この仮説を検証すべく,Y染色体上の3種類のDNA多型マーカーを用いて,日本人Y染色体を4種類のタイプに分類し,疫学的手法を用いて,おのおののY染色体ハプロタイプと子供のいる健常男性の精子数との関連を検討した.子供のあるボランティア成人の精子濃度を調べたところ,Y染色体のタイプによって精子濃度が異なることがわかった.また男性不妊の重要な原因の一つである,無精子症の頻度もY染色体のハプロタイプによって異なっていた.この事実は,(1)Y染色体のタイプによって精子数が異なる,(2)無精子症の起こり易さは特定のY染色体のハプロタイプと関連している,ということを示している.精子数が少ないタイプおよび無精子症の頻度が高いグループはHammerらにより縄文系とされている男性であった.
著者
古野 純典 神代 正道 佐々木 淳 清原 千香子 加藤 洋 安 允玉
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

大腸がんは韓国にあっても増加傾向にある重要ながんであるが、韓国では大腸がんの発生要因に関する疫学研究はほとんどおこなわれていない。伝統的な食事と欧米化した食事が混在する韓国首都圏は大腸がんの疫学研究に適した地域と考えられる。韓国における大腸がんの遺伝的感受性要因とライフスタイル要因を多面的に検討する目的で、ソウル地区において患者対照研究を実施した。合わせて、大腸がんの部位別分布や病理組織学的特徴をも検討した。患者対照研究:ソウル大学病院及びハリム大学漢江聖心病院の入院患者を対象に大腸がん患者群と非がんの対照群を設定し、面接調査により喫煙、飲酒、運動および食事などのライフスタイル要因に関する調査をおこない、血液約10mlを採取した。1998年10月から1999年12月までの期間に大腸がん247例と対照226例から血液試料の提供が得られた。ライフスタイル要因ついての予備的解析では、喫煙及び飲酒による軽度なリスク上昇、赤身肉と関連した有意なリスク上昇、乳製品と関連した有意なリスク低下を認めた。野菜、果物との関連性はみられなかった。CYP1A1MspI、GSTM、葉酸代謝酵素MTHFR及びアポプロテインEの遺伝子多型の解析を進めている。病理学的比較研究:ソウル大学病院、久留米大学病院及び癌研究会病院の大腸がん手術症例それぞれ約200例を対象として、部位別分布と組織型などの病理学的比較をおこなった。ソウル大学病院手術症例約200例の検討では、わが国の手術症例に比べて、直腸がんの割合が高かったが、結腸がんの部位別分布には大きな差は見られなかった。組織学的には韓国症例で高分化型腺がんの頻度が多い傾向にあった。
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

GRB970228をはじめとして、いくつかのバーストで、X線、光学、電波で残光現象が発見され、それが、矮小銀河の端に位置することも指摘された。ガンマ線バーストの先駆体は、寿命の短い大質量星などとすると、その形成地点は安定なディスク銀河中ではなく、不規則な矮小銀河の外縁にあることを意味し、銀河の星密度が濃い中心部ではなく、周辺で形成されることを意味し、そのような星形成がなぜ起きたかが問題になる。その銀河の形態とガスの状態とバースト源を生み出すはずの星形成との関係性をあきらかにすべく、銀河形成における星形成を視野に入れて、ダークハロー中で収縮するガスの分裂条件を調べた。角運動量を持っているガスが、収縮してディスクを形成し、あるものは分裂する。この分裂条件をシミュレーションと解析的手法を用いて、明らかにした。そのような知見をもとにすると、収縮率が大きく、角運動量による遠心力によって決まるディスクの半径がダークハロー半径の中に収まれば、分裂しやすいことが、明らかになった。これを、銀河形成の状況に当てはめると、ガス密度が高く、輻射冷却が効果的に聞く時機であるHigh-zで、分裂する条件が実現しやすいことが明らかになった。電波で観測されたこのバーストのシンチレーションの振舞は、相対論的膨張しているものから残光が放射されていると考えられるので、相対論的衝撃波説が強く指示される。しかしながら、このような相対論的衝撃波を形成するためには、火の玉と星間物質の互いのバリオン同士が充分相互作用する必要があり、銀河系内の宇宙線の拡散係数を用いると、衝撃波の厚みの目安になる1TeVの陽子の軌道変更距離が5pcにもなり、衝撃波は形成されない。ただし、比較的強い磁場10^4Gがあることにより、衝撃波の厚みを薄くすることができるが、星間物質にはこのような強い磁場は存在しない。したがって、バースト源からの放出体そのものが磁場を持っている必要がある。そこで、これらの困難を超えるものとして、我々は、 線バーストのモデルとして磁気波動砲を提出した。このモデルをさらに、回転の効果を入れた解析を行った。現在、この回転によるダイナモ効果を中心に、磁場の効果の研究を継続している。
著者
小林 青樹
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、西日本の縄文・弥生移行期における東日本系土器の展開を検討し、その分布と各段階における特徴的な様相を追求することにある。北部九州で水田稲作が開始され渡来人の入植が始まる早期1段階から、弥生前期の新しい段階にわたる東西文化の相互交渉を中心に検討をおこなった。まず、西日本における東日本系土器の集成をおこない、これと平行して近畿地方以西の広範囲にわたって併行関係をおさえることが比較可能となる、土器編年の構築作業をおこなった。その結果、東日本系土器は北部九州から近畿の各地で見られ、時期毎にその分布に特徴的な様相が認められる。まず、表の早期1段階以前の晩期中葉、大洞Cl式段階までは土器及び土偶の大量出土に見られるように著しい緊密な関係が存在した。次の早期1段階、すなわち北部九州で水田稲作が開始される段階に突然関係が断絶してしまう。さらに次の前期1段階、すなわち北部九州で最古の弥生土器である板付I式土器が成立する段階に再び関係が活発化する。この段階には、西日本各地の土器様式構造に影響を与えるほどに関係は緊密であり、弥生土器の成立に東日本の要素が色濃く継承された。こうした現象は、弥生文化の成立が決して西日本を中心に単系的に実現されたのではなく、東日本の縄文系文化を含めた広範囲にわたる相互交渉の結果、予想以上の複雑性をもちつつ成し遂げられたことを示している。今後、土器以外の考古資料の検討をおこなう予定である。
著者
大津 透
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

講談社の『日本の歴史』シリーズのなかで、第6巻「道長と宮廷社会」を執筆して、日本の古代国家の形成のなかで、東アジア世界で中国文明を吸収して文明化をとげたが、その到達点が10-11世紀の藤原道長に代表される摂関政治にあることを解明し、江戸時代まで続く宮廷社会の成立の歴史的意味を考えた。律令制が変質して、律令国家の第二段階となるだけでなく、白氏文集に代表される漢文学の流行、作文など漢詩の作成をうけて『源氏物語』『枕草子』などの王朝文学が花開き、藤原行成など三跡が和様書道を完成させ、藤原公任が『和漢朗詠集』を編み、漢詩と和歌のアンソロジイを作り、日本の古典的な美意識を規定した。日本における古典とは、一義的には中国における儒教の経典であるが、それが律令国家の展開の中で日本で吸収定着するなかで、この時代に日本にも古典と呼びうる独自な作品や美が生まれたのである。また編集も兼ねる第8巻では天皇制についての多角的な議論を行っている。調査としては、中国寧波の天一閣で発見された北宋天聖令の田令・賦役令の比較研究を進め、具体的な唐令の復原作業を進めている。また龍谷大学所蔵の大谷探検隊が西域より将来した大谷文書のうち、唐西州の退田文書、欠田文書、給田文書からなる均田制関係文書群について、副葬時に四神に青龍の形をなして七枚以上張りあわされていたことを解明し、多くの断簡接続を発見した。大谷文書の整理に貢献しているだけでなく、唐律令制の土地・民衆支配が解明され、日本の田令の特質も明らかになるであろう。
著者
生田 和良 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

ボルナ病ウイルス(BDV)は神径細胞親和性のマイナス鎖、一本鎖のRNAウイルスで、これまでに少なくとも6遺伝子が同定されている。感染細胞には、p40(ヌクレオプロテイン)とp24(リン酸化蛋白)が主要ウイルス蛋白として検出されるが、ウイルス粒子にはp40蛋白が主要で、p24蛋白はほとんど倹出されない。BDVは、ウマに脳炎症状を引き起こすウイルスとして分離された。ヒトにおいては、精神疾患患者とBDV感染との関連性が指摘されている。私たちはこれまでに、パーキンソン病(PD)患者の剖検脳(黒質領域)において、BDV感染が高率(9例中6例)に認められることを初めて見いだした。また、陽性であった6例中の4例において、新生仔スナネズミ脳内へのBDV伝播が可能であった。本研究では、PD病態におけるBDVの関与の可能性を検討した。BDVを脳内接種した新生仔スナネズミにおいて、接種BDVの感染価依存的にBDV脳内伝播が激しく、歩行異常等の症状後、死亡するまでの時間も速く経過した。接種したBDVの感染価にかかわらず、脳幹部でBDVが検出できる時期にほぼ一致して神経症状が観察された。このBDV接種スナネズミでは、抗p40抗体はほとんど検出されずに抗p24抗体が検出された。さらに、p24遺伝子をGFAP、ヒトセロトニン受容体遺伝子プロモーターの下流に導入することにより、脳内でp24蛋白を発現するトランスジェニックマウスを作出したところ、一部の系統で神経症状(首振りや歩様異常など)が認められ、BDV発現が海馬や小脳において認められた。以上、脳内の特定部位へのBDV持続感染が成立し、p24が発現することが神経症状出現へと導く可能性が示唆された。
著者
生田 和良 朝長 啓造 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

最近の研究によりボルナ病ウイルス(BDV)がヒトの脳内に感染していることが明らかとなった。私たちは、パーキンソン病患者の剖検脳にBDVの遺伝子が高率に検出されることを報告してきた。そこで本研究では、パーキンソン病の発症とBDV感染との関連性について検討を行うことを目的として、パーキンソン病のモデル動物の確立に向けたBDVの中枢神経病原性の解明に向けた研究を行った。BDV p24蛋白質はBDVの主要抗原であり、BDVの中枢神経病原性に深く関与していると考えられている。そこで、p24蛋白質を脳内のみに発現するトランスジェニックマウス(p24-Tg)数系統を作出し、その表現型ならびに脳内におけるp24蛋白質の発現について解析を行った。その結果、線条体を含む領域にp24蛋白質を発現した数匹のp24-Tgマウスにおいて、後肢麻痺などの神経症状が観察された。また、Tgマウスは脳内栄養因子(BDNF)の発現低下が認められ、神経症状との相関性が示唆された。さらに、p24蛋白質が神経細胞の機能に与える影響を探るため、p24蛋白質と結合する宿主側因子の同定を行い、p24蛋白質が神経細胞細胞の生存維持に関与していると考えられている神経突起伸張因子(amphoterin)と特異的に結合することを明らかにした。今回の解析により、脳内におけるBDV p24蛋白質の発現が、脳内栄養因子の発現ならびに神経細胞の生存維持に影響を与えている可能性が示唆された。このことは、BDVの感染がドーパミン産生ニューロン変性の促進要因のひとつとなっている可能性も示している。今後さらに、p24蛋白質の神経細胞死への関与を詳細に解析する必要があると考えられる。
著者
増田 隆一 天野 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

日本産固有種を含む哺乳類の遺伝的な地域変異を分析し、日本列島と大陸における陸橋・海峡の形成史および古環境の変動と比較検討することにより、日本列島における生物地理的歴史を考察することが目的である。本年度は、エゾヒグマ、ニホンジカ、イイズナ、オコジョ、ホンドテン、クロテンを分析対象とした。その結果、動物種毎に独自の渡来の歴史をもっていることが明らかとなった。特に、北海道のエゾヒグマ集団において、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のコントロール領域およびチトクロームb遺伝子の塩基配列の分子系統解析により、北海道には3つの遺伝的集団が存在し、それらは道南地方、道北―道央地方、道東地方に分かれて分布することを突き止めた。分子時計により、これら3集団の分岐年代は約30万年以上前と推定され、各々がユーラシア大陸で分岐した後、異なるルートまたは異なる時代に陸橋を経て北海道へ渡来したものと考えられた。大陸産ヒグマ集団と比較することにより、北海道集団の遺伝的特徴は世界のヒグマの分布拡散の歴史を解明する上で重要なポイントになることが示唆された。また、ニホンジカ集団について、mtDNAコントロール領域の分子系統解析を行った結果、北海道―本州集団および九州(その周辺島嶼を含む)集団という大きな2つのグループに分類することができた。その境界は中国地方にあると推定されるが、詳細は現在調査中である。津軽海峡(ブラキストン線)をはさんだ東北地方と北海道との間の遺伝距離は小さく、日本列島全域の個体群を比較した場合、両者は北海道―本州集団に含まれた。今後は他の動物種についても分析を進め、日本列島における哺乳類の生物地理的歴史と日本列島周辺の陸橋・海峡形成史や古環境の変動との関係を明らかにして行く予定である。さらに、上記の現生種のDNA情報をもとに、考古試料の分析も進めていく。
著者
鳥越 俊彦 佐藤 昇志
出版者
札幌医科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

HIVに対するprotein therapyを考案し,その基礎的研究を進めている.(1)HIV tat蛋白質の11アミノ酸から成る細胞膜透過ドメインと,GFP蛋白質との融合蛋白質を作成し,細胞内への浸透性について解析した.Tat-GFPは細胞膜を透過しなかったが,Tat-Survivin-GFP蛋白質は透過した.Tat濃度依存性,温度感受性を確認した.ドミナントネガティブSurvivin蛋白質を腫瘍細胞に浸透させたところ,細胞にApoptosisを引き起こすことに成功した.(2)つぎに,Tat細胞膜透過ドメインを含む合成ペプチドが細胞膜を透過することを共焦点レーザー顕微鏡によって確認した.HIV nef蛋白質が発現を抑制するHLA-A分子の細胞質内ドメインから,HIV nef蛋白と会合すると予想される領域を推定し,この領域とTatドメインとの融合合成ペプチドを作成した.現在,Nef発現細胞を作成し,この合成ペプチドがNefの作用を抑制するかどうか実験を行っている.(3)細胞のapoptosisを促進するミトコンドリア蛋白質SmacのN末端機能ドメインとTatドメインとの融合合成ペプチドSmac7-Tatを作成した.このペプチドは細胞内に浸透し,細胞にapoptosisを引き起こすことを確認した.HIV proteaseが発現しているHIV感染細胞内で活性化するような,HIV protease認識配列を組み込んだTat-smac7ペプチドを設計した.これがHIV感染細胞に対して選択的にapoptosisを引き起こすことができるかどうか,今後,検証する.
著者
増田 隆一 天野 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

北方民族の文化として知られるクマ送り儀礼の起源は、北海道およびサハリン南部を中心としたオホーツク文化期(紀元後6〜12世紀)の遺跡から発掘されるヒグマ遺存体にさかのぼることができる。本研究では、北海道礼文島におけるオホーツク文化期の香深井遺跡から発掘されたヒグマ考古資料(主に頭骨)の産地を同定することを目的として、ミトコンドリアDNAを指標とした古代DNAの分子系統分析を行った。現在、ヒグマは礼文島に自然分布していないので、香深井遺跡のヒグマは礼文島以外の地域から文化の交流とともに持ちこまれたものと思われる。これまでに解読することができた礼文島古代ヒグマの遺伝情報を北海道本島における現生ヒグマ集団のDNAデータと照らし合わせた結果、礼文島古代ヒグマのDNAには北海道の道央-道北型および道南型の2系列が存在することが明らかになった。これは、礼文島古代ヒグマが少なくとも道北地方および道南地域から持ち込まれたことを示している。さらに、形態的データと比較すると、道南型DNAをもつ礼文島古代ヒグマはすべて秋に死亡した1歳未満の仔グマであった。それに対して、道央-道北型の礼文島古代ヒグマの多くは春に死亡した3歳以上の成獣であった。道南型DNAをもつ仔グマはおそらく春グマ猟で捕獲され、当時の道南地方の続縄文人、または、道北地方のオホーツク人によって半年余り飼育されたと考えられる。礼文島古代ヒグマにおける道南型DNAの発見は、仔グマ・ギフトを伴うクマ送り儀礼が、従来強調されてきた集団内だけでなく、異集団間の絆を強める機能をも果たしたことを示唆している。
著者
大和田 幸嗣 原口 徳子
出版者
京都薬科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1996

(1)p35誘導高発現系の確立:HA-tag付加p35をドキシサイクリン(Dox)で誘導過剰発現できるHeLaの安定なクローン細胞、2株を分離した。これらの細胞でHA-tag-p35の細胞内局在は内在性p35と同一だった。今後この系で、p35の細胞周期における役割を詳細に解析できることが期待される。(2)p35の細胞内局在:p35特異抗体(#23)を93-112番目のアミノ酸配列に対するペプチド抗体として作成した。正常ラット細胞とヒHeLaを#23、中心体特異蛋白質γ-tubulinに対する抗体、Hoechst33342(染色体を染色)で三重蛍光染色を行なった。p35は間期細胞では中心体と核に局在した。M期の前中期から後期ではp35は細胞質と中心体に局在したが、終期では中央体にも存在した。(3)p35はM期特異的にリン酸化され異常な分子量シフトを示すリン酸化蛋白質である:1)ノコタゾール(Noc)処理によりM期前期に停止した3Y1細胞抽出液を#23でWestern blotをおこなった。間期細胞での35Kのかわりに44Kと46K(44/46K)の新たなバンドが検出された。44/46Kバンドは中期の細胞まで検出されるが後期、終期の細胞では消失し、代わりに35Kが検出された。2)M期前期の3Y1細胞抽出液をphosphatase処理すると、44/46Kバンドは消失し約36Kバンドが出現した。Noc処理3Y1細胞を^<32>Piで標識し#23抗体で免疫沈降するとリン酸化44/46Kのみが検出された。リン酸化アミノ酸分析の結果、44/46Kはセリンとスレオニンがリン酸化されていた。GFP-tag-p35(65K)を高発現する細胞をもちい同様の実験を行った。但し免疫沈降は#23と抗GFP抗体を用いておこなった。M期でのみリン酸化75Kが両抗体で検出され、セリンとスレオニンとがリン酸化されていた。尚、#23で内在性リン酸化44/46K(リン酸化75Kの20%弱)も免疫沈降した。さらにリン酸化部位もリン酸化75Kと同一だった。間期では弱いながら65Kのリン酸化が認められ、その部位はセリンのみであった。以上から、M期でのp35はリン酸化され、高次構造が変化し、SDS-PAGEでの10Kに及ぶ分子量シフトをしめす。リン酸化による高次構造の変化にはスレオニンのリン酸化が重要であることが強く示唆された。 (投稿準備中)
著者
山中 速人 山田 晴通 園田 茂人 山本 真鳥
出版者
中央大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

フィールドワークの教育にあたっては、フィールドワークが野外調査をもっぱらとし、言葉だけでは再現できないリアルな現場を調査対象とするため、現場から離れた教室的環境での講義や演習には、事例の提示や技法の紹介などで多くの困難が存在してきた。本研究は、マルチメディアを活用し、現場から離れた教室環境においても、リアリティのある現場の映像や音声情報を学生にインタラクティブに提示することによって、これまで教室講義では果たせなかったフィールドワーク教育のための新しい教育方法の開発を行った。本研究で開発した教材は、1.初学者(学部教育レベル)を対象とし、2.フィールドワークのための基本的な知識と技能の習得をめざし、3.マルチメディアされた素材(映像・音声・文字)によって現場の事例を擬似的現実として提示しながら、4.ステップを踏んでインタラクティブに学習を行うものである。教材の媒体は、教室講義のための補助的教材を想定し、CD-ROMとした。その後、さらに、たんに補助教材の制作だけでなく、それとメディアミックスする印刷教材と組み合わせて使用するよう教材の内容が練り上げられた。執筆者として、研究分担者を中心に7人の社会学・文化人類学者が1章づつを担当し、印刷教材の内容に対応する著者自身のフィールドワークの現場と調査経験を写真、映像、文字によって再現した。これらの研究成果をもとにして、CD-ROMが添付された大学教科書を出版する契約が出版社との間で交わされ、CD-ROM付きの教科書が2001年度秋に出版の予定である。
著者
小澤 政之
出版者
鹿児島大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

カドヘリンの機能(細胞間の接着活性)がいかなる機構で制御されているのかを明らかにする目的で、カドヘリンのみにその細胞間接着性が依存している細胞のモデルシステムを確立した。即ち、ヒト白血病細胞の一つ、K562細胞は、カドヘリンを含む細胞間の接着分子を全く発現いていない。そこで、この細胞にE-カドヘリンの発現ベクターを導入し、E-カドヘリン発現細胞(EK細胞)を得た。EK細胞はE-カドヘリン依存性の細胞間接着性を示し、細胞の凝集塊を形成する。EK細胞の凝集塊を過バナジン酸処理して細胞内タンパク質のチロシンリン酸化レベルを上昇させるとカドヘリンの活性低下が起こり、細胞が解離した。本研究では、過バナジン酸処理によりカドヘリン・カテニン複合体にいかなる変化が起こりカドヘリンの接着活性の低下へとつながったのかを明らかにしようとした。その結果、1)EK細胞を過バナジン酸処理すると、β-およびγ-カテニンのチロシンリン酸化のレベルが上昇し、カドヘリンによる細胞間の接着性が低下すること、2)β-およびγ-カテニンのチロシンリン酸化は両分子のコンフォメーション変化を示し、α-カテニンが複合体から解離すること、3)β-カテニン上のあるチロシン残基を、フェニルアラニン残基に置換した変異β-カテニンをEK細胞で発現させると、過バナジン酸処理により細胞のチロシンリン酸化のレベルを上昇させても、細胞はバラバラになりにくいことが判明した。さらに、この変異β-カテニンからのα-カテニンの解離も著しく抑さえられることが判明した。
著者
笹月 健彦 黒木 登志夫 渋谷 正史 黒木 登志夫 宮園 浩平 高井 義美 月田 承一郎 笹月 健彦 田原 栄一 菅村 和夫
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

「がん生物」領域は、がんの基礎研究からヒトがんを材料とする臨床研究まで広い範囲をカバーし、計画研究(1)5班、計画研究(2)28班、公募研究63班の計96班、研究者数229名と総括班より構成された。この特定領域では、がんの生物学的特性を明らかにすることによって、がんの予防、診断、治療に貢献することを目的とする。遺伝子発現の調節、シグナル伝達、細胞の増殖と分化、細胞死、細胞の構造と機能、細胞間相互作用、生体内ホメオスタシス維持機構など、生命科学のもっとも基本的な問題、およびヒトがんの特性、浸潤・転移などのがん固有の問題を、以下のように研究対象として設定し、研究を推進した。A01. 細胞の増殖・分化・細胞死 A04. 浸潤・転移A02. 細胞の構造と機能 A05. ヒトがんの特性A03. 細胞間相互作用平成11年度は、以下のような活動を行った。(1)「がん生物」ワークショップ:「がん生物」に属する全ての研究代表者が参加して自由に討議し、研究の一層の進展をはかり、さらに研究資料の交換、共同研究の設定を促進することを目的として、ワークショップを開催した。平成11年度は、「がん特定領域研究(A)代表者会議に連動して、7月12日、研究代表者による研究発表を行った。これを一つの機会として各研究者間の交流、研究協力の実がはかられた。(2)研究成果の公表「がん生物」の分野で卓越した研究成果を挙げている研究者を選び、文部省がん重点公開・合同シンポジウムでその成果を発表した。本年度で、平成6年より開始された「がんの生物学的特性の研究(がん生物)」は、6年間が終了することになったが、「がん生物」で行われてきた研究は卓越しており、来年度より開始される新しい特定領域研究の方向性を与えることとなった。
著者
岩崎 宏之 仲地 哲夫 並木 美太郎 桶谷 猪久夫 柴山 守 勝村 哲也 星野 聰 石上 英一 高橋 延匡 梅原 郁 石田 晴久
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1994

かつて琉球は、東アジア世界における地域間交流の要、「万国之津梁」として繁栄した。この沖縄の地理的重要性は、今日においても変るところがない。沖縄は今も日本、中国、台湾、朝鮮半島、さらには東南アジアの諸地域を包む環東シナ海世界の要である。沖縄をそのような国際社会のなかに位置付けて地域間交流の具体的様相を歴史的に考察し、東シナ海を取り囲む諸民族、いわゆるアジアニーズの歴史的変貌を明らかにすることを課題として重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」は平成6年度より同9年度までの4年間の研究期間をもって遂行された。本研究は、領域研究の成果を取りまとめて研究成果報告書を作成し、領域研究の成果である琉球・沖縄史と環東シナ海地域間交流史に関する各種歴史情報を、学界はもとより広くインターネット等を利用して一般に公開・利用に供することを課題とした。琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する多種多様な歴史資料をいかにして情報化するか、本領域研究では、(1)各種研究文献の統合的把握のための歴史情報の集積と検索システムの開発、(2)古文献、古文書資料など琉球・沖縄に関する歴史資料が、どこに、どのようなものがあるか、各種歴史資料の所在に関する情報の集積と検索システムの開発に関する研究、(3)本領域研究で調査・収集した琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する基本的史料の画像情報の検索システムの開発とこれら各種資料をインターネット上で広く公開・利用するためのシステムの開発、(4)琉球王朝期の外交文書集「歴代宝案」や琉球家譜、「明実録」「清実録」「島津家琉球外国関係文書」など、琉球・沖縄史研究にとっての基本的文献の全文テキスト・データベースや環シナ海地域間交流史に関する各種の文献史料の情報化、を進めた。計画研究・公募研究の各研究班によって行なわれたこれらの情報化資料はすべて総括班に集積された。本研究課題は、これらの情報化資料の統合、ならびにその検索システムの開発等に関する各種の研究成果の取りまとめを行ない、またこれら収集・集積した各種歴史情報を筑波大学付属図書館の電子図書館サーバーからインターネットに公開・提供するための整備作業を進めた。平成10年8月には、本領域研究の全体を総括した総括班研究成果報告書「沖縄の歴史情報研究」を刊行した。また、本領域研究で収集されたマイクロフィルム等各種歴史情報は、東京大学史料編纂所、筑波大学附属図書館、大阪市立大学学術情報総合センター、沖縄国際大学南島文化研究所等に寄贈し、ひろく学界の利用に提供することにした。
著者
當間 孝子 宮城 一郎
出版者
琉球大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

マラリアは八重山・宮古諸島を中心に明治時代から報告され、人々の生活に大きな影響を与えていた。1957年より、DDT残留噴霧を中心としたマラリア防圧計画が実施され1962年流行は終息した。沖縄県は国際交流の拠点として重要な位置にあり、人の交流も盛んである。また地球温暖化により、媒介蚊の分布拡大やマラリア原虫が持ち込まれる可能性が高い。マラリアの発生予防の基礎資料を得るために、八重山諸島の本種の生息状況を明らかにした。1.石垣島におけるAn.minimusの生息分布 1998年9〜10月に48、1999年9〜10月には56の河川、渓流、湧き水で調査を行い、調査水域の約70%に本種幼虫の生息を確認した。2.石垣島の4水域における本種の年間の発生消長 幼虫:1998年11月より月2回、柄杓で100すくいし、年間の発生消長を調べた。ファナンと西浜川の幼虫の発生消長パターンは類似し、年間の発生総数も多かった。12月後半から4月前半までは発生個体数は少なく、5月後半から8月前半までは400〜1,000の個体を採集した。市街地に近い新川渓流で最も多い時期は2月後半から4月後半で300〜350個体を採集した。成虫:3渓流近くの牛舎にライトトラップを月2回設置し、1998年11月から1999年10月まで捕獲した。ファナン川近くの牛舎では5月前半から8月後半に個体数が増し、西浜川の牛舎では、調査を行った3地域の中では個体数が最も多かった。冬期は少なく、3月前半から増し、42個体になり、7月前半から8月前半に最も多く、151〜228個体を採集した。新川渓流周辺地域は最も個体数が少なかった。3.西表島およびその他の離島における本種幼虫の生息状況 西表島は20、小浜島では25水域中、それぞれ4、6水域で生息を確認した。小浜島での生息の確認は初めてである。波照間、与那国島では本種の生息は確認出来なかった。
著者
岡部 洋一 円福 敬二 吉田 啓二 高田 進 藤巻 朗 田中 三郎 松田 瑞史 藤井 龍彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.超伝導回路岡部は、BSFQ回路方式に基づくAND、OR、XOR、NOTの各論理ゲートの動作マージンを±30%にまで拡大することに成功した。また、超伝導体と半導体のハイブリッドコンピュータ実現を見据え、インターフェイスデバイスを試作した。高田は、ユニバーサルNANDゲートおよびNORゲートの設計を行い、シミュレーションにより高速動作と低消費電力性を確認した。藤巻は、界面改質型高温超伝導体ジョセフソン接合の試作を行い、臨界電流値のばらつきはピンホールに起因するという結論を得た。2.SQUID応用円福は、高温超伝導SQUIDにより磁気微粒子からの微弱磁界が高精度に測定できることを利用して免疫反応検出システムを開発し、従来の機器よりも10倍〜100倍の感度で検出が可能であることを示した。田中は、高温超伝導SQUID顕微鏡の試作を行い、室温の磁束ガイド針を用いた場合でも100μmよりも高い分解能が得られることを示した。松田は、高温超伝導SQUIDグラジオメータを作製し、フラックスダム構造を用いることにより環境磁場雑音影響を大幅に軽減できることを示した。藤井は、生体磁場測定のための医療用磁気センサにおいて、環境磁場測定用SQUIDを付加することにより磁気シールドを用いずに微小磁場を測定することに成功した。3.高周波応用吉田は、高温超伝導薄膜上でアンテナとフィルタを一体化することにより、特性の向上が図れることをシミュレーションで示した。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉とさせていないものとを用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、Chordinで誘導される多数の神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期の神経板全体に発現していた。アフリカツメガエルのアニマル・キャップを用いた微量注入法の解析の結果、Zic-related 1,Sox-Dは単独で外胚葉の神経分化を誘導することが明らかとなった。これらは神経分化のごく早い時期にChordinの下流で働くエフェクターとして働き、proneural genesの上流で働くことが示唆された。一方、Sox-2は単独では働かず、FGFと協同的に働いて神経分化を誘導し、コンピテンスを変化させる因子と考えられた。現在、これらの因子とともに、さらに他の多くの単離された因子の活性を詳しく検討中である。このように神経誘導の初期に働く転写因子が複数同定された。それらは必ずしも重複したものではなく、神経発生での役割に違いが認められた。さらに詳細な遺伝子間相互作用を検討するために野生型、ドミナント・ネガチィブ変異体のGR融合型の転写因子を作成することに成功したので今後これらを用いて解析を進める。さらに哺乳類培養細胞の系をもちいて試験管内での神経分化制御を可能にすべく、未分化胚細胞ES細胞などにこれらの因子を遺伝子導入し、その効果を判定中である。
著者
笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

微細なパターン形成に関与するChordinの下流因子の機能解析として我々は昨年報告したChordinの下流因子の機能解析を行うためのドミナンlへ・ネガチィブ変異体を作成し、mRNA微量注入法により胚での神経発生における機能を検討した。SoxDのドミナント・.ネガチィブ変異体を強制発現させ機能阻害をすると、胚の大脳の発生が顕著に抑制され、OTXなどのマーカーも抑えられた。このことはSoxDが大脳原基の発生に必須であることを示した。また、脳及び頭部外胚葉の「微細なパターン形成」に関与する新しい因子の同定を目的として脳及び頭部外胚菓の形成期の細胞間や組織間の「ローカルなトーク」を媒介する因子を同定しようとした。中期神経胚の頭部神経板よりこうしたシグナルトラップcDNAライブラリーを作成し小スケール・スクリーニングを行った結果、十数個の新しい神経特異的分泌因子(または膜蛋白)を同定したがFloor Plate特異的に発現している新規の分泌因子はSonic Hedgehogと同じぐらい早期より発現していた。この因子KielinはChordinと弱い相同性を示したが生物学的活住は全く兄なっていた.KielinはChordinとShhで誘導され、正中部のパターン形成に関与するらしいことがわかってた。さらにCyclopsというTGF-beta系の因子でも誘導された。この因子を発現ベクターに組み込み、現在さらに詳しい検討を進めている。