著者
小澤 義雄
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.183-192, 2013

本研究は,健常な高齢者31名に家族についての語りを収集するインタビュー調査を実施し,正の遺産を受け渡す世代間継承と負の継承を分断する世代間緩衝の認識を伴う自己物語を表出した9名を対象に,その語りの類型化と各類型における世代間関係の秩序化の構造の分析を実施した。その結果,類型として「世代間継承成立型」,「世代間継承半成立型」,「世代間緩衝半成立型」の3つが抽出された。世代間継承の自己物語には,正の遺産の継承が成立した次世代やその一側面を称賛し,継承が成立しない次世代やその一側面を退ける対比構造が観察された。そこから,世代間継承の語りが自己経験に秩序をもたらす営みであることを指摘した。世代間緩衝の自己物語には,前世代との間に生じた苦難とその苦難を分断して育んだ次世代とを対比の中に,前世代との関係性に対する新たな発見や,断ち切ったはずの負の遺産の継承を次世代の中に発見することが観察された。そこから,負の遺産の分断を語ることが,自身の不運な幼少期の意味を塗り替える能動的側面と,不意に次世代の中に自身の負の遺産を発見するという受動的側面を併せ持つ営みであることを指摘した。