著者
小田 雅也
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.617-629, 1993-08-10

はじめに 今から30年ほど前には,肝脳相関する疾患の研究は大きなトピックであり,現在われわれの持っている知識の多くはその頃に発展した1)。その結果,治療の著しい進歩によって,最近ではこの種の疾患は激減し,患者の予後も好転するとともに,研究テーマとしてはやや古くなった感がなきにしもあらずだが,とくに“肝性グリア”と言われるように,アストロサイトの異常形態の多くが,肝性脳症をもととして明らかにされ,これらの研究を通して,神経系機能におけるグリアの重要性が認識される糸口となった。以下には肝疾患のグリア障害につき,著者自身の研究を中心として,形態的な側面から概観する。 定型的な肝性脳症の臨床・病理像の中核は,長期にわたって反復する意識障害のエピソードと,グリアと実質(ニューロン)の二本立ての脳障害である(表1)。これにいかにアストロサイトの異常が役割を演ずるかは,今なお未解決の課題である。最近では,アストロサイトの培養,免疫組織化学,生化学分析,電顕などを併用して,肝性脳症の発生機序に関するbiopathologicalな研究が発展しつつある。