著者
小石 ナカ
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.420-437, 1962-01-30 (Released:2010-11-29)
参考文献数
34

年齢4~10才の養護施設児童ならびに一般家庭児童392名(男子のみ)の全対象を一群20ないし50名を単位として, DL-トリプトファン, L-リジンあるいはDL-スレォニン各05~0.69/日を1958年10月1日より14ガ月間にわたり連日内服させ, その日常食餌への補足が児童の成長におよぼす効果について検討し, つぎの成績をえた。1.まず6~9才学童にトリプトファンを補足した場傷その補足による14カ月間の体重増加量は, これを実験開始時体重に対する成長比率としてみた場合, 対照群に比べて平均約20%大となり, 有意な補足効果がみとめられた一しかし身長における補足効果は体重の場合ぼど明らかではなかった。2.つぎに8~10才学童にリジンを補足した場合, その14カ月間における体重増加比率は対照に比べて平均約13~19%大であり, これもまた有意な補足効果であったただし身長における効果はトリプトファンの場合同様体重におけるほど明らかな差としてみとめられなかった。なおスレオニンをリジンに追加補足した場合の効果については本試験条件では認められなかった。3.以上トリプトファンあるいはリジン補足の効果は成長速度, ことに体重増加として証明できたが体力検査成績あるいは血液蛋白性状などに影響を与えなかった。4.学童の日常摂取食餌をみると摂取栄養素量はほぼ十分であるが, その必須アミノ酸組成はこれをFAO規。準配合対比としてみると, トリプトファン76~78%, 含硫アミノ酸75~83%でともに蛋白価の制限因子となる。またリジン対比は117~128%となったが, 質的に良好な蛋白摂取にあっては, リジン摂取は約154mg/kg, FAO規準対比約150%であり, この点からはまだ不十分な摂取量であるとみなされた。5. 以上の成績から, トリプトファンあるいはリジン補足はわが国学童の成長促進に役立つものであり, その理由が日常摂取食餌中のトリプトファンあるいはリジンの相対的不足に帰因するものであろうと推論した。