著者
工藤 与志文 小石川 秀一
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.42-48, 2012

本論文は,小5「電流が生み出す力」の授業実践における子どもの認識とそれに関する教師の認識とのずれを示す事例の報告である。これらの事例では,事実認識とコトバの意味に関して,教師の想定していた子どもの認識と実際の子どもの認識が大きく食い違っていた。4つの事例の分析を経て,以下の点が論じられた。(1)事例で示された認識のずれは,教師と子どものやりとりの中で初めて顕在化するような微妙なものであったが,授業目標の実現に大きな影響を与えるものであった。(2)子どもの思考は具体的なイメージにしばられる傾向があり,これが認識のずれをもたらす要因の一つであった。また,コトバの操作だけでイメージを変化させるのは困難であった。(3)子どもたちに抽象概念を理解させるために,具体的な現象に置き換えて教えることは重要だが,それだけでは,個別の現象の学習にとどまってしまう可能性が高いことが示された。この点を克服するためには,抽象概念と個別的現象を結びつけるはたらきをもつ経験が重要である。