著者
小笠原 希実
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-17, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
19

二次イオン質量分析法(Secondary ion mass spectrometry : SIMS)は,広い範囲のエネルギーのイオンビーム(一次イオン)を固体試料に照射することで引き起こされるスパッタリング現象により,二次的に放出される試料の構成原子によるイオン(二次イオン)を信号として検出することで,試料に含まれている元素および化合物の情報を得る分析法である.これまでは主に半導体などの材料科学や,鉱物の年代分析などに用いられてきた.SIMSの技術を発展させた同位体顕微鏡,NanoSIMS,TOF-SIMSなどの顕微鏡技術の登場によりSIMS装置での生物試料の分析が検討されるようになり,植物試料においても元素および分子を直接観ることが可能になってきた.現在では植物の組織・細胞レベルでの微量元素の検出ができるようになりつつある.これまでの植物科学における元素分析は,根や葉などの器官レベルでのバルク分析によって,定量的に知見を得てきた.植物における元素の重要性は組織・細胞レベルで考えられているにもかかわらず,実際の分布を直接観察することは難しかった.本稿では,植物科学におけるこれまでの元素分析手法を紹介するとともに,SIMS装置を用いた植物組織・細胞レベルでの元素のダイレクトイメージングの進歩について説明したい.