- 著者
-
藤浪 理恵子
- 出版者
- 日本植物形態学会
- 雑誌
- PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.1, pp.47-52, 2019 (Released:2020-03-31)
- 参考文献数
- 41
維管束植物の根頂端分裂組織(RAM)の構造は,種子植物でみられる開放型や閉鎖型,シダ植物大葉類の1つの頂端細胞をもつものなど,多様性に富む.根の多様性がどのように獲得されてきたのか,根の進化過程を解明するために,現生の維管束植物で原始的なグループと考えられているシダ植物小葉類のRAM構造を明らかにすることとした.小葉類はイワヒバ科,ミズニラ科,ヒカゲノカズラ科から構成され,それらのRAMは4つの構造に分けられることが示唆された.ヒカゲノカズラ科は2タイプのRAM構造をもち,1つは始原細胞群が中央で共通し,被子植物の開放型に似た構造をもつタイプ(type I),2つ目は原表皮の始原細胞群が1細胞層で,その他の組織の始原細胞群と区別されるタイプ(type II)であった.ミズニラ科はtype IIと似たRAM構造であるが,原表皮と根冠の始原細胞群が共通する点でtype IIと区別された(type III).そして,イワヒバ科のRAMは1つの頂端細胞をもつことから頂端細胞型とした.細胞分裂動態解析から,type Iのヒカゲノカズラは種子植物の静止中心(quiescent center, QC)の分裂動態によく似たQC様領域をもつことが明らかとなった.一方,type II, type III, 頂端細胞型のRAMにはQC様領域はなく,真葉類とは異なる特徴を示した.小葉類のRAM構造は多様に進化しており,真葉類との比較が可能であると推測される.本稿では,維管束植物の根の形態進化について,現生の小葉類のRAM構造と分裂動態から議論する.