著者
小笹 勝巳 住友 理浩 川田 悦子 角 明子 中塚 えりか 高井 浩志 古武 陽子 金本 巨万 林 道治
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.34-38, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
8

緒言: A 群溶連菌(Group A Streptococcus; GAS)による重症感染症が1980年代より報告されるようになってきた.一般には咽頭や皮膚からの感染が多いとされているが,感染経路が不明なことも多い.今回我々は子宮内膜細胞診後に発症した重症GAS 感染症を2例経験したので報告する.症例1: 46歳女性.帯下異常及び外陰掻痒感を主訴として当科初診.腟分泌物細菌培養及び子宮内膜細胞診を施行した.翌日に突然の腹痛をきたし,翌々日,当科再診した.来院時ショック状態であり,骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease; PID)の所見を認めたため,抗生剤投与及び抗ショック療法を開始した.初診時の腟培養及び入院時血液培養からGASが検出されたため,toxic shock-like syndrome (TSLS)を疑い免疫グロブリン投与,エンドトキシン吸着療法も施行.血圧安定後,腹腔鏡下に腹腔内洗浄ドレナージを施行.集学的治療で全身状態は改善し軽快退院となった.症例2: 52歳女性.子宮癌検診として子宮内膜細胞診が施行され,当日夕方より嘔吐,下腹部痛,悪寒,戦慄が出現した.翌日,当院救急外来受診.受診時38℃台の発熱とショックを認めた.内診で子宮の可動痛著明であり,子宮内膜細胞診を契機とした敗血症性ショックと診断した.初診時の血液培養,腟培養からGASが検出されTSLS の診断基準は満たさないものの,それに準じた病態と考え,抗生剤,昇圧薬,免疫グロブリン投与を施行し軽快退院となった.結語: 子宮内膜細胞診後に発症した侵襲性GAS 感染症を2 例経験した.子宮内膜細胞診は日常診療でしばしば用いられる手技であるが,重篤な合併症の報告はまれである.子宮内膜細胞診の合併症として侵襲性GAS感染症が発症しうるということを念頭に置いた対応が必要と考えられた.