著者
小西 達男
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.383-398, 2010
参考文献数
35

過去300年で最も強大とされる1828年シーボルト台風(子年の大風)について,古文書,シーボルトによる観測記録等を元に,災害の実態,原因,台風の勢力,高潮の状況を調べた.その結果,(1)佐賀藩の被害は,死者数が8,200~10,600人,負傷者数が8,900~11,600人,全壊家屋が35,000~42,000軒,半壊家屋が21,000軒程度である.佐賀藩の人口を36~37万人とすると死亡率は2~3%となる.また家屋数を8万軒とすると,建物の全壊率は約50%,全半壊率は75%程度となる.(2)北部九州での被害は,死者数が13,000~19,000人,全半壊家屋が120,000軒以上である.(3)台風は長崎県の西彼杵半島に土陸し,佐賀市北部を通って北部九州を縦断し,周防灘から山口県へ再上陸したものと思われる.中心気圧は935hPa程度,最大風速は55m/s程度と考えられる.(4)顕著な高潮被害が有明海,周防灘,福岡湾等で生じている.上の推定を基にした高潮数値シミュレーションによれば,それぞれの港湾で4.5m,3.5m,3mを超える最大潮位偏差となり,古文書による被害地域とよく一致する.(5)台風による高潮害の特徴は,類似のコース,勢力で九州北部を通過した台風9119号で観測された高潮とよく一致しており,台風経路の推定が妥当であること及びこのコースが北部九州地域にとって極めて危険であることがわかった.