著者
小野 あけみ
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.236, 2016

はじめに重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は、様々な疾患を持ち、重度の脳障害による認知発達の遅れや言語発達の遅れなどから、有効なコミュニケーションが成立しにくい特徴がある。今回、頻繁な泣きがみられた重症児(者)において、泣きが重要なコミュニケーション手段であるととらえ、関わり方を工夫した結果、情緒が安定し、職員との人間関係がより深まる経験が得られたので報告する。対象A氏60歳代女性。医学的診断:脳炎後遺症(横地分類B1)、知的障害、両下肢運動機能障害、高血圧、糖尿病。方法泣きが起こりやすい状況を把握するため、観察調査を行い、その分析結果から、看護目標を、1)不安が軽減し、安心感をもつことができる、2)要求に適切に対応することで満足感を得ることができる、3)注目されたいという気持ちを大切にすることで職員との円滑なコミュニケーションを取ることができる、と設定した。実施に際して、安心できる環境を作り、職員の関わり方を統一した。結果2カ月後には、あいさつのときに職員が手を差し出すと職員の手に触れる行動が増え、3カ月後には職員を自分の近くに手招き、職員が近づくと触れて笑顔をみせるようになった。泣きがあるときには手浴や手指マッサージを行うと泣き止み、本人から「手洗う」「クリーム」「こっち」等の言葉での要求が多くなり、職員と一緒に過ごす作業時間には言葉と笑顔が見られる様になり、泣きの時間は介入後ほぼ半減した。考察A氏の意思に添う関わりや環境を作り、職員が対応を統一したことにより、A氏から職員にスキンシップを求めたり笑顔になる場面が増え、泣き以外に言葉や態度で意思や要求を示すようになった。言葉で伝えることが出来ない重症児(者)の要求を知るために、行動観察によって行動の意味や身体的影響を把握し、その人らしさを理解することは生活の質の向上において重要である。