著者
御影 雅幸 小野 直美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.419-428, 2009 (Released:2010-01-13)
参考文献数
40
被引用文献数
4 5

漢方生薬「芍薬」は,日本ではシャクヤクPaeonia lactiflora Pallas(ボタン科)の栽培根を乾燥したものを使用しているが,中国では「赤芍」と「白芍」に区別して用いている。中国では5世紀には芍薬に赤と白の別があることを認識し,原植物も複数種あった。芍薬の赤・白の区別点については古来,根の色,花の色や花弁の形態,野生品と栽培品の相違などの説があった。本研究で古文献の内容を検討した結果,野生品か栽培品かに関係なく,根の外皮をつけたまま乾燥したものを赤芍,外皮を去って蒸乾したものを白芍としていたと考証した。また明代の湖北,安徽,浙江周辺では,野生品で赤花のP. veitchiiやP. obovata Maxim. の根を赤芍とし,栽培品で白花のP. lactifloraの根を加工して白芍薬として使用していたと考察した。このことは芍薬の赤白がたまたま花色と一致したため,赤芍は赤花,白芍は白花とされ,同様に赤芍は野生品,白芍は栽培品として区別する習慣ができたものと考察した。